3月4日、富山湾の海底から1台の車が引き上げられた。この車は、1996年から行方不明となっていた2人の少女が失踪当時に乗っていたものであり、中からは複数の人骨が発見された。状況から考えて、2人のご遺体とみて間違いないだろう。

 行方不明になってから24年の時を経てご遺体が発見されたというだけでも数奇なものを感じるが、私はそれ以上に大きな衝撃を受けた。この事件のことは、以前からずっと気になっていたからだ。

「肝試しに行く」と言って姿を消した少女たち

 事件のはじまりは、1996年5月5日夜のことだった。当時19歳だった2人の少女は、家族に「肝試しに行く」と言って富山県氷見市内の自宅を出発した。その後、友人のポケットベルに「今魚津市にいる」というメッセージを残し、行方不明になった。

ADVERTISEMENT

北陸随一の心霊スポットとして知られる“坪野鉱泉”

 魚津市には、北陸随一の心霊スポットと言われている廃墟がある。1982年に廃業した8階建ての温泉旅館で、通称“坪野鉱泉”と呼ばれている。夏場には肝試しの若者たちが集まり、富山県内外の暴走族の溜まり場にもなっていた。

 富山県警は2人が坪野鉱泉に出かけて消息を絶ったと判断し、事件・事故の両面で捜査を開始。ヘリコプターを投入して大規模な捜索も行われたが、手がかりが掴めないまま歳月が過ぎていった。そのうち、坪野鉱泉の廃墟で暴走族に殺されて埋められたのではないかという噂や、北朝鮮に拉致されたんじゃないかという噂まで囁かれるようになり、巷では「神隠し事件」とも呼ばれ始めた。

実際に現地に行ってみると……

 私がこの坪野鉱泉に興味を持ち、現地を訪れたのは2006年のことだった。もともと廃墟が好きで全国を巡っていたが、事件のことを知り、現地を自分の目で見たくなったのだ。

 夏の日の早朝、内部に足を踏み入れると、日が昇っているというのに薄暗く、足元が全く見えない。下階の窓が板で打ち付けられているため、光が入らないのだ。いたる所に落書きがあり、窓やドアばかりではなく壁や天井まで破壊されている。

いたる所に落書きが残されていた

 暴走族やヤンキーと呼ばれる人たちには幽霊を怖がる傾向があるのか、破壊して恐怖を紛らわしているように感じる。天井や壁までもが破壊されているのは、金属泥棒が配線の銅を盗んでいった跡だろう。

 全国の廃墟を巡っていると、金属泥棒の痕跡を見つけるだけではなく、そこが盗品の置き場になっている光景を目にすることもあった。廃墟は犯罪の温床になりやすく、治安は総じて悪い。