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「必要なモノを、必要な時に、必要な量だけ」というシステム

 加えて高度な物流がある。ミニマリストには「街を自分のすまいに」という理念があり、キッチンは近所のスーパーやコンビニであり、ダイニングは常連のカフェや食堂であり、仕事部屋は街なかのコワーキングスペースと捉える。これらが成立するのは、自分が必要になったものはいつでも近くですぐに手に入れることができるからだ。つまり生活すべてがジャストインタイムのシステムによって成立しているのである。

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 ジャストインタイムは「必要なモノを、必要な時に、必要な量だけ供給する」という手法のことで、トヨタのカンバンシステムを発祥とする。余計な部品在庫などを持たないことで、生産性は究極に高まり、生産のコストも下がる。このジャストインタイムをさらに洗練させたのがアップルだ。特に現CEOのティム・クックは「在庫は邪悪」という哲学で有名だ。これは調達する部品だけでなく、iPhoneなどの完成した製品の在庫も含んでいる。2005年に最高執行責任者(COO)に就任してからは、市場の需要に対する供給量をきわめて細かく調整し、倉庫に置かれている期間を数週間から1日未満にまで縮めることに成功したという。この結果、新製品をどんどん発売しても旧製品をほとんど抱えないで済むようにもなった。

アマゾンではAIによる「予測出荷」の特許も

 iPhoneは中国で組み立てられているが、部品は中国や韓国、日本を中心に世界約200社から調達している。完成品はアップル本社のある米国を経由せず、中国から直接消費地へと配送されている。これが可能になったのは、グローバルサプライチェーンが高度に進化したからだ。メーカーは各国のさまざまなサプライヤーから柔軟に部品を集めることができるようになり、世界を網の目のように結ぶ生産のネットワークができあがった。

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 部品調達だけでなく、消費者にモノが届けられるリテール分野でも、ジャストインタイムの思想があらゆるところに行き渡っている。コンビニやドラッグストアの店頭に並ぶ商品は余計な在庫を店舗が持たないですむように、しかし品不足にはならないようにきわめて正確に調整されている。その結果、バックヤードも面積を広く取る必要がなくなり、店舗面積を効率化できるようになった。

 アマゾンに至ってはジャストインタイムの「今」どころか、タイムワープして先に商品を用意することまで考えている。客がアマゾンで何を買うかを事前にAIで予測し、その商品を近くの配送センターにあらかじめ配送しておくという「予測出荷」という技術の特許まで取っているのだ。

 物流や消費だけではない。ファイナンス分野では内部留保の議論にもあったように、手持ち資金を溜め込むことは罪悪だと考えられ、技術開発への投資や株主への配当などとにかくお金を回していくことが求められるようになった。世界的に金融市場がだぶついていたこともあり、スタートアップはとにかく多額の資金調達をして先行投資するようになった。

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 このようにして製造業から消費者まで、上流から下流まで、世界規模でありとあらゆるところがジャストインタイムになった。ケヴィン・ケリーは著書『〈インターネット〉の次に来るもの』(NHK出版、2016年)でこう書いている。