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「アフターコロナ」社会はどうなる? 「ミニマリスト」から「プレッパー」の時代へ

2020/04/13
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新型コロナで表面化した「フロー」の脆弱性

「あなたが家に停めてある固体の車は、ウーバー、リフト、ジップ、サイドカーといったサービスのおかげで、個人向けオンデマンド運輸サービスへと姿を変えている」

「われわれはいま、フロー(流れ)の時代に入っているのだ」 

 ジャストインタイムが完成することで、あらゆるものは個体から流体としてのサービスに姿を変え、フロー(流れ)化していく。これが21世紀のグローバリゼーションの本質のひとつであり、情報通信テクノロジーの目指している理想だ。

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©iStock.com

 ところがこの21世紀ビジョンは、新型コロナウィルスによって撃墜されつつある。

 グローバルサプライチェーンは国どうしの相互依存を進め、多くの産業は自国内だけでは成り立たなくなっている。比較優位の原則によって国際分業が進み、クリティカルな部品や完成品であっても他国から輸入するようになった。これはコストを下げて効率を良くしたのだが、隠されていた脆弱性がパンデミックによって一気に表面化してしまったのだ。

 典型的なのは、いま世界中で起きているマスク不足である。世界の医療用マスク生産のおおむね半分近くを担っていたのは中国だ。武漢で新型コロナ感染が広がった当初、中国は国内供給分のマスクすべてを買い上げ、さらに輸入まで行った。結果として世界的に供給が滞り、欧州で感染爆発が進む中で各国は輸出禁止や国内流通分を政府が押さえるなどの措置を取らざるを得なかった。

世界的なマスク争奪戦に

 アメリカでもマスク不足が深刻になり、中国からフランスに輸出される予定だった医療用マスク数百万枚の一部が、発送直前にアメリカ向けに切り替えられる騒ぎまで起きた。米国の業者が3倍の買い取り価格を提示したためといい、世界的なマスク争奪戦になっている。

世界的なマスク不足に対して医療用マスクメーカーが「不眠不休によるマスクの増産」をしない理由とは?』という記事によれば、もともとアメリカでもマスクが生産されていたが、1枚10セントの国産マスクでは中国産の1枚2セントに価格で勝てず、マスクメーカーが破綻一歩手前にまで追いやられていたのだという。記事の中でマスクメーカーの社長は「医療用マスク市場全体はマスクの価格にしか興味をもたず、誰も耳を傾けてくれませんでした」と語っている。

 国際分業を善とする前提では、アメリカでのマスク国内生産は不要ということになる。比較優位の原則で考えれば、マスクは中国や東南アジアなどの工場に任せ、アメリカは情報通信や金融、宇宙、バイオなどの先端分野に注力したほうが良い。しかしパンデミックで国境の壁が無限にでかくなった瞬間に、グローバル経済における国際分業の意味は大きく崩れた。