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「もうベッドが足りない」「救急搬送を受け入れられない」……いま杉並区で起きている“医療崩壊”の壮絶な現場

もはや感染拡大のスピードが完全に上回っている

2020/04/12
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通常の救急搬送の受け入れができない

 しかし、杉並区内で新型コロナウイルスの感染者を受け入れられる病院の病床数は、最初の感染者が出た2月時点で2院に計4床しかなかった。3月19日からの感染拡大を受け、この2院が11日までに計21床へと増やした。だが、事態の進行には追いつけなかった。

 しかも、2院の病床は軽症と中等症の感染者用に整備したはずなのに、重症者を受け入れる都内の感染症指定病院が満床になったため、重症者への対応も迫られる事態になっている。例えば、「入院中の患者の呼吸状態が悪くなり、人工呼吸器を装着しなければならなくなっても、感染症指定病院の転院先がありませんでした」と、区内の医療関係者は語る。

©iStock.com

 さらに悪いことに、他の疾病や外傷による救急搬送にも支障が出始めた。別の医療関係者は「ある病院の発熱外来を受診した患者の状態が悪く、すぐに入院が必要と診断されました。ところが、既に新型コロナウイルス対応のベッドは満床でした。そこで入院先の確保を保健所に依頼しましたが、案の定見つかりませんでした。結局、その病院の救急科で診療せざるを得なくなり、通常の救急搬送の受け入れはできなくなってしまいました。相当数の搬送を断ったそうです。しかも、救急科から感染症の患者を移した後も、消毒するまでは救急搬送を受け入れられませんでした。こうした事態が何度も起きているのです」と切々と訴える。

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感染者を受け入れると「毎月1億円とか2億円の赤字」

 小池百合子・東京都知事は3月23日、140床しかなかった新型コロナウイルス感染症の受け入れ病床数を4000床に増やすと表明したが、そんなに簡単にはいかない。

 このため都は軽症者をホテルへ移動させ始めたが、もはや感染拡大のスピードが完全に上回っているのだ。

 東京で新型感染症が発生した場合に真っ先に受け入れる役割を持っている都立病院では、外気との圧力差でウイルスが広がらないようにした「陰圧」の病室を整備しているところがある。しかし、一般の民間病院にそのような病室はない。

台東区の永寿総合病院では大規模な院内感染が起きた ©AFLO

 そこで、病室の線引きをしたり、一般病床との動線を分けたりするだけでなく、感染症対応のスタッフも確保しなければならない。それどころか、感染者を受け入れていると知られた段階で風評被害を受け、他の症状の受診者が激減してしまう。

「各院とも毎月1億円とか2億円とかの赤字が発生すると言われています。そんなことを続けていたら経営が持ちません。長い戦いになると言われているのに、病院そのものが破綻してしまう」と区関係者は危機感を募らせる。