昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

顔も体も血まみれの男女が……「大宮アベック連続殺傷事件」の現場“アベック山“を探して

“オカルト探偵“吉田悠軌が紐解く“都市風景と怪談” 農業用水路

2020/04/18

「アベック山という心霊スポットが大宮にあるらしいんですが、そこの場所がよくわからないのです。吉田さんは、どこだか調べられませんか?」

 埼玉県在住の怪談マニア、H君がそんな依頼を申し出てきた。怪談・オカルト関係の調査を生業としている私は、こうした奇妙な頼まれごとをされることも多いのだ。

 H君によれば、スポットを特定した上で、そこでささやかれている怪談の由来も知りたいらしい。

「どうやら、やけに男女カップルの幽霊を見るという目撃談が多いらしくて。でもその原因が調べてもわからないんですよね」

 それは例えば、こんな怪談だという。

かつて「アベック山」と呼ばれた見沼代用水べり。かつての鬱蒼たる暗闇は、面影もない ©吉田悠軌

薄暗い道ばたにうずくまる二つの人影

 ある夜、アベック山近くにある家の玄関が激しく叩かれた。家人がおそるおそるドアを開くと、真っ青な顔の若者が一人。

「助けて、助けて」

 そう、しきりに呟いている。何があったのか訊ねたところ、若者は震える声で次のようなことを語った。

 ――先ほど、彼は川沿いの道を歩いていたそうだ。その辺りは広々としたグラウンドなので、街灯も少なく薄暗い。そこでふと、道ばたに二つの人影が、背を向けてうずくまっているのに気づく。男女のカップルのようだが、二人ともかなり具合が悪そうだ。

「大丈夫ですか」

 心配して声をかけたものの、返事がない。聞こえないのだろうかと、女性の背中を叩こうとしたところで。

 若者は、体ごと前につんのめった。自分の手が、女の体をすり抜けてしまったからだ。

 その勢いで、二人の正面まで歩み出る。思わず振りかえり、うずくまっている彼らと目が合ってしまう。顔も体も血まみれの男女が、こちらをぼんやり見つめていた。

見沼代用水 ©吉田悠軌