「アベック山という心霊スポットが大宮にあるらしいんですが、そこの場所がよくわからないのです。吉田さんは、どこだか調べられませんか?」
埼玉県在住の怪談マニア、H君がそんな依頼を申し出てきた。怪談・オカルト関係の調査を生業としている私は、こうした奇妙な頼まれごとをされることも多いのだ。
H君によれば、スポットを特定した上で、そこでささやかれている怪談の由来も知りたいらしい。
「どうやら、やけに男女カップルの幽霊を見るという目撃談が多いらしくて。でもその原因が調べてもわからないんですよね」
それは例えば、こんな怪談だという。
薄暗い道ばたにうずくまる二つの人影
ある夜、アベック山近くにある家の玄関が激しく叩かれた。家人がおそるおそるドアを開くと、真っ青な顔の若者が一人。
「助けて、助けて」
そう、しきりに呟いている。何があったのか訊ねたところ、若者は震える声で次のようなことを語った。
――先ほど、彼は川沿いの道を歩いていたそうだ。その辺りは広々としたグラウンドなので、街灯も少なく薄暗い。そこでふと、道ばたに二つの人影が、背を向けてうずくまっているのに気づく。男女のカップルのようだが、二人ともかなり具合が悪そうだ。
「大丈夫ですか」
心配して声をかけたものの、返事がない。聞こえないのだろうかと、女性の背中を叩こうとしたところで。
若者は、体ごと前につんのめった。自分の手が、女の体をすり抜けてしまったからだ。
その勢いで、二人の正面まで歩み出る。思わず振りかえり、うずくまっている彼らと目が合ってしまう。顔も体も血まみれの男女が、こちらをぼんやり見つめていた。