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炒めて冷やすという、深い技
省職員と思しき人と人の隙間に空いている席をみつけ着席し、すぐに激しい音を立ててそばを啜りだす。
それぞれが「ずずずっ」と啜る音。私語はない。
「やるなあ日豊庵、やるなあ農水省」と思ったり、思わなかったりしながら「ずずずずっ」。
そしてすぐに「冷し野菜いためそば」の至福の旨さに包まれる。
「冷し野菜いためそば」は至ってシンプル。野菜は細切りニンジンと玉ねぎをさっと炒めて冷やしたもので、返しの味も感じられる。コクを出すために揚げ方を工夫した揚げ玉を野菜に添えて、冷たいつゆをぶっかけたものである。創業期からの人気メニューだ。
ひと口たべる。ふた口食べる。このシンプルな「冷し野菜炒めそば」は計り知れない完成度だと思う。シャキッとした野菜と細めのそばの麺が調和していている。しかも薬味の柚子胡椒が素晴らしく味を深めている。毎日「冷し野菜炒めそば」だけ食べてもいいと思う。このシンプルなメニューは「日豊庵」以外でみかけることはほとんどない。