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当日分だけ製麺、つゆは返し、出汁とも自家製

 使用するそばは、店内で当日分だけ製麺し、つゆは返し、出汁とも自家製である。玉ねぎは主に北海道、ニンジンは徳島など国産のものを季節に合わせて選択し、そば粉も北海道や常陸産のものを使用している。農水省のお膝元だから当然といえばそうなのだろうが、これをアピールしていないところが、奥ゆかしい。

 

「日豊庵」を経営する野川麺業のルーツは野川康昌氏。野川氏は日本麺類業団体共同連合会の会長を務めた方で、戦後の中国からのそばの輸入に奔走し、北海道の旭川郊外の江丹別に千五百ヘクタールのそば畑を作るなどそばの普及に尽力された。昭和31年、次男の野川博三氏が法務省にそば処を開業したのが野川麺業の始まりである。そんな功績があって官庁に店を出すことができたのだろう。

弁当はデスクで広げる省職員にも人気だとか

 EUからの輸入チーズの関税撤廃、TPPの混乱など激動の農水行政が渦巻く霞が関のこの地で、全員で黙々とそばを啜る音を聞きながら食べていると、官僚たちの心意気が感じられる気さえする。

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 国産のうまいそばを、うまい野菜を提供する「日豊庵」には大衆そばに根ざした姿勢が感じられる。また官僚たちの啜る音を聞きに来よう。ずずずずずっ!

 
INFORMATION

日豊庵(農水省)

千代田区霞が関1-2-1 農林水産省 北別館 1F

営業時間
月~金 11:00~15:00

 写真=松本輝一/文藝春秋