「昇進して以来、ウイルス問題でまったく外出をしていないから、『大関!』と声を掛けられることもないんです。実感は、まだ……あまりないですね(笑)」
そう笑顔を見せるのは戦後初となる異例の「無観客開催場所」で、見事、大関昇進を果たした朝乃山。
思えば昨年5月の夏場所では平幕力士として初優勝し、来日中だったトランプ米大統領から、これまた初となる「アメリカ大統領杯」を授与されたものだ。注目を浴びる話題の場所をものにし、「強運を持っている」とも言えそうだ。
本音は「やりにくかったですよ……」
昇進には、3場所合計33勝が数字上の目安と言われており、この無観客開催場所での朝乃山のノルマは12勝。13日目に白鵬に破れて3敗となり、14日目の鶴竜戦では、1度は軍配が朝乃山に上がるものの、行司差し違えで惜敗した。痛恨の4敗目を喫した朝乃山は、
「まだまだ、自分がそれだけ弱いってことです。あとちょっとだったんで悔しかったですけど、明日は思いっきり行きます。(大関取りは)出直しです、出直しです!」
報道陣にサバサバとした笑顔を見せていた。言葉通り、千秋楽の貴景勝戦では、先輩大関を圧倒。数字ではなく、相撲内容と安定感が評価されて「満場一致」の大関昇進となる。無観客開催という未曾有の場所で、誰もが戸惑うなか、大関を一発で手中にしたのだ。「この経験値を力にしていきたい」と新大関は口にするのだが、「本当にやりにくかったですよ……」というのが本音のようだ。
5月夏場所はどうなる?
静まりかえった館内で、四股を踏む音、息づかい、一挙手一投足の小さな音が響き、独特の緊張感が張り詰める中での、15日間。