ユニクロの店舗で1年以上も働き、ルポを『週刊文春』に連載した横田増生氏(52)。ジャーナリストとして初めて福島第一原発の作業員となり、『ヤクザと原発』(文春文庫)を上梓した鈴木智彦氏(51)。初対面対談の第1回は、「我々はなぜ、潜入取材に挑むのか」。その意義と醍醐味を語る。

◆◆◆

真夏にもかかわらずユニクロの秋物新品を着る横田氏(左)と、原発潜入時の作業着姿の鈴木氏(右)

きっかけは柳井さんからの招待状

鈴木 横田さんはいま、俺たち同業者が一番妬いている存在。

ADVERTISEMENT

横田 そんなことないでしょう。

鈴木 いや、大方そうです。新宿のビックロでアルバイトとして働きながら、長時間労働やパワハラを実体験として報じたんですからね。みんな妬いているけど、自分にはできないから「はぁ~」ってため息つくしかない。

連載をまとめた電子書籍『ユニクロ潜入一年』。秋には再構成した新刊を上梓する。

横田 柳井正社長が雑誌のインタビューで、「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」と語っていたんです。そのあと、オープンであるはずの決算発表会見に出ようとしたら、僕だけ拒否されたんですよ。それは理不尽だし、取材を断われば黙って引き下がると思わせるのも癪だし、「そういえば、柳井さんから招待状をもらってたな」と(笑)。

鈴木 なめんなよ、ってことですよね。驚嘆するのはそこからです。普通だったらそこで止めるのに、採算度外視で内部へ入って行ったことに拍手喝さい。

横田 ありがとうございます。1年2カ月は長かったけど、『週刊文春』が10週も連載させてくれたのと、電通の過労死や働き方改革が問題になったタイミングもよかったです。鈴木さんが福島第一原発で働いたのは、事故の直後でしたね。

原発はとにかくでかかった

鈴木 2011年の7月からひと月ちょっとでした。俺はもともと、暴力団ばかり書いているライターなんです。原発の潜入取材は、作業員の手配が暴力団の大きなシノギになっていると聞いたのと、暴力団と原発には誰もが嫌がる危険な取材先という共通点があるから。いろいろ伝手を頼って、取材を前提に5次請け業者に雇ってもらいました。仕事は主に、汚染水処理タンクの設置作業や掃除でした。

鈴木氏の潜入時の写真 ©鈴木智彦

横田 実際に働いてみて、一番わかったことは何ですか?

鈴木 原発がでかいことです。建屋の下へ行って見上げてみないと、あのでかさはわからない。もう科学的な根拠なしに、「これが壊れたら、ちょっと無理だよな」って本能的に感じさせるでかさです。

横田 映像は誰もが見てますけど、自分の目で見ないとわからないんですね。行ってみるというのは取材の初歩だけれども、やはり強い。

鈴木 潜入ルポって、読者にとっては疑似体験できる面白さがあるんだと思うんですよ。旅行記や紀行文みたいなもの。つまり横田さんの目になって、読んだ人がユニクロで働くのと同じ。

横田 そうですね。

鈴木 潜入取材には手間がかかりますけど、自分が経験するわけだから裏取りするまでもなくわかる、という言い方もできますよね。証言者から話を聞いて伝聞で書いていくより、一日働いてみたら一発でわかります。短期間の潜入だからにわかエキスパートですけど、当事者としてつかんだ知識は強いし、意図して取ろうと思っても取れない証言が得られます。