日常のエアポケットに潜入する
鈴木 自分のやっていることが超スタンドプレーで、みんなが「ウワッ」と驚くところへ行く面白さを求めているのは自覚してるんです。でもそういう目立つ場所だけじゃなくて、日常の中にもエアポケットがいっぱいありますよね。どこの街にもあるユニクロだって、中に入れば異世界なわけでしょう。
横田 そうなんですよ。社内で回覧される「部長会議ニュース」で、柳井社長のコメントとして「われわれは情報産業になろうとしてますから、情報の漏えいがあってはなりません。社員はもとより、下請けや関係会社の方もご注意願います」みたいなことが書いてあるわけです。
鈴木 外へ情報が漏れないようになっている。
横田 一種の脅しなんでしょうね。そんな情報統制が利いている企業へは、やっぱり潜入するのがひとつの手段になります。鈴木さんの本にも、東電が強いからしゃべったら怖いみたいな話が出てくるじゃないですか。潜入ルポは、そういった壁を突破できる。
クビになるのも面白い
鈴木 『週刊文春』の連載は、働き始める前に「取材の成果が上がったら記事にする」という約束があったんですよね?
横田 単行本にすることを前提に、3~4回の予定でスタートしたんです。3つの店舗で働いたんですが、3店目の新宿ビックロがネタ的においしかった(笑)。圧倒的な人手不足で長時間労働あり、サービス残業あり、パワハラもあり。連載を始めたら情報提供がたくさんあって、結果的に10回に延びました。
鈴木 働いている最中に連載を始めたわけでしょう。どうオチがつくか楽しみでしたよ。
横田 どうやってクビになるのかも、面白いと思ってたんです。連載1回目の載った『週刊文春』が木曜に発売になって、何も連絡がないまま、翌々日の土曜が出勤日でした。出社すると本部の人事部長が待っていて、「退職する意思はないんでしょうか?」と聞くんです。「ありません」「では、解雇通知をさせていただきます」アルバイト就業規則に抵触しているというんですけど、理由は「記事を書いたこと自体がダメ。当社の信用を著しく傷つけた」というだけなんです。
鈴木 揚げ足を取られたくないから、具体的な理由を話さないんですか。
横田 いや、クビを告げる以外の権限を与えられてないんでしょう。トップがムカついたから「クビを切れ」ということで、彼は下命を受けてきただけでしょうからね。
鈴木 なるほど。辞めるところまで、物語として完成度が高いです。大きな企業って、人の入れ替わりが激しいですよね。一定人数の新しい人間が入ってくるのに、マスコミが潜り込んでくる事態を想定してなかったんですね。
横田 僕が言い渡されたのは、諭旨解雇でした。懲戒解雇というのはこっちに落ち度があるからクビになるわけですが、諭旨解雇はそうではなく、話し合いによって自主退職とほとんど変わらない形で辞める。何が言いたいかというと、ユニクロは僕を懲戒解雇にできへんかったわけです。この潜入ルポが単行本になったときユニクロが訴えてくるかもしれませんが、提訴の理由が弱くなりますよね。名誉毀損なりの理由をつけるなら、記事のどこがダメなのか具体的に挙げた上で、懲戒解雇にしておかなあかんかったわけです。
鈴木 ああ、提訴との整合性が取れなくなるわけですか。
横田 そうそう。「悪いことをしたとおっしゃるけど、僕は懲戒解雇になってないじゃないですか」と反論できる。
鈴木 怖いなぁ、ジャーナリストって(笑)。
ユニクロ×原発 潜入ジャーナリスト対談#2「僕らの潜入取材の方法と掟」につづく
構成=石井謙一郎 写真=白澤正/文藝春秋
よこた・ますお/1965年福岡県生まれ。ジャーナリスト。著書に『ユニクロ帝国の光と影』『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』など。ユニクロの店舗で一年働き、長時間勤務の実態やパワハラの存在を報じた「週刊文春」の連載が話題になる(電子書籍『ユニクロ潜入一年』として発売中)。10月に連載をもとに大幅加筆した新刊を発売予定。
すずき・ともひこ/1966年北海道生まれ。雑誌、広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーライターに。東日本大震災の直後に福島第一原発で2カ月間作業員として働き、『ヤクザと原発』(文春文庫)を上梓。