新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京五輪の開催が来年7月に延期されることになった。国際オリンピック委員会(IOC)は延期の決定に至るまで、4年に1度の「平和の祭典」が選手や観客の生命や健康に勝ると言わんばかりに振る舞い、いたずらに決断を遅らせ、世界中の選手や競技団体から激しい非難を受けてきた。
4月20日に『オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側 』(文春新書)を上梓したジャーナリストの後藤逸郎氏が五輪延期の決定を遅らせたIOCの「マネー・ファースト」というべき体質について綴った。
他のスポーツやイベントが早々に延期や中止を決めた中、なぜオリンピックの判断が遅れたのか。それは、IOCが世界最大級のイベントに育て上げたオリンピックが、スポーツ・ビジネスの集金システムと化し、IOC自身を縛っているからだ。IOCの行動原理は「アスリート・ファースト」ならぬ、「マネー・ファースト」にほかならない。
IOCは「スポーツ・ビジネスの企業集団」
「平和の祭典」を掲げるIOCだが、実は国際機関でも、国連機関でもない。スイスのローザンヌ市に拠点を置く非営利組織(NPO)兼非政府組織(NGO)であり、その傘下に財団や株式会社、有限会社を多数抱えている。いわば、「スポーツ・ビジネスの企業集団」なのだ。オリンピックを創設したクーベルタン男爵が唱えた「オリンピック・ムーブメント」の展開を社是とし、その活動資金を主にテレビ局からの放映権料で賄っている。
放映権料のおかげで、IOCの財政は極めて安定している。直近(2013~2016年)の収支報告によると4年間の収入総額は57億ドル。うち73%を放映権料、18%をTOPと呼ばれる企業スポンサー料が占めている。また、2018年末の総資産は41億ドル、流動資産は23億ドル、非流動資産は19億ドル。現金およびその他の金融資産は計37億ドル。1980年のサマランチ会長就任時に流動資産は20万ドルしかなかったと伝えられるのが信じられないほどの急伸ぶりだ。
しかし、新型コロナウイルスの世界的流行は、そんな“優良企業IOC”の欠陥をさらけ出した。収益の柱が放映権料である以上、大会中止は自らの首を絞める行為に等しい。延期しようにも、年内も1~2年後も他のスポーツ大会とその中継が予定されている。放映権料を収益源としているのは、ほかの競技団体も同じだ。優越的な立場でテレビ局を手玉にとってきたはずのIOC、そして主力事業のオリンピックは、テレビ中継を核としたスポーツ・ビジネスの歯車のひとつに過ぎなかったことが露呈したのだ。