文春オンライン

ユニクロ×原発 潜入ジャーナリスト対談#2「僕らの潜入取材の方法と掟」

note

ヤマト運輸潜入時の思い出の品

ヤマト運輸潜入時に実際に使用していたもの

横田 そうそう。鈴木さんが書いていた中国製のメガネカメラ。僕も使いましたよ。動画も撮れますしね。でもあれって画面を写すのはいいけれども、文書の文字まではなかなか写せないですね。

鈴木 解像度が低くて。ピンホールカメラですもんね。こっちのグッズは何ですか?

横田 ヤマト運輸で働いたときの思い出の品です(笑)。ヘルメット、アキレス腱を切らないためにカバーするもの、手を保護する手甲バンド。重さが300キロとか400キロもある冷蔵庫のようなコンテナを引っ張るときに、手を挟んで複雑骨折する人がいるんです。

ADVERTISEMENT

鈴木 危険な職場なんですね。

着用イメージ

「難民より私たちだよね」

横田 原発の現場と比べると、危険と言っても程度が違いますが。原発ではメモは取れないでしょう。ICレコーダーを回しっ放しですか?

鈴木 服は全部支給されるんですが、作業着にはポケットがないんです。中の下着にだけポケットがあって、小物を入れても落ちない仕組みになっているので、そこにICレコーダーを入れてました。

横田 マイクは?

鈴木 マイクは外につけられないんですけど、みんな全面マスクをしているので大声でしゃべるんです。怒鳴り合いのような会話なので、下着のポケットでもなんとか録音できます。それを毎日、パソコンに移していました。暑さと放射線のせいで、作業は1日2時間ぐらいしかなかったんですけど、後でまとめてやるのは大変ですから。何気ない雑談で出た話を拾うのが面白かったですね。ポンと本音が出ますから。

横田 雑談はいいですね。僕も1時間半の休憩時間は、雑談を聞くためにずっと休憩室にいました。全部で3店舗働いたんですが、最初の店舗で働いているとき、売上が悪くて、「このままでは会社が潰れますから、皆さんの出勤時間を削らせてください」というときがあったんですが、実はそれはユニクロが難民を100人くらい雇用しますと発表した数日後のことだったんですよ。

鈴木 福祉事業みたいなことで。

横田 そうそう。そのときお昼を食べていたら、ある女性が「難民より私たちだよね」と言った。「座布団1枚!」と思いました。ビックロで働く前の2店舗目の店が僕にとって面白くなかったのは、休憩室がなかったためです。雑談ができなかったので、見切りをつけて早々に辞めました。

鈴木 昔の営業マンはタバコを吸えって教えられたというけど、喫煙室ってもっと気が抜けるんですよ。原発の現場で、全面マスクを外してやっとタバコに火をつける、あの一体感。俺はもともと吸うので、かなり助かりました。あと、お酒ですね。労働者から話を聞くのに、酒が飲めないとかなりのハンデです。

©鈴木智彦

横田 飲み会だと、相手のガードはさらに下がりますからね。

鈴木 おっしゃる通りです。だから積極的に飲みに行きたい。原発のあと、密漁の取材をしたんですよ。アワビやナマコやしらすの密漁って、メチャメチャ暴力団事案ですから。密漁したものを築地で売ってると聞いて、築地の仲卸に潜入取材をしたんです。

横田 どれぐらい働いたんですか? 

鈴木 12月から翌年の4月まで、ターレーという丸いハンドルの運搬車に乗ってました。でも事情を知ってる社員とサシで飲む機会がなかなかない。4ヶ月ぐらいかかってようやく飲みに行って、「密漁のアワビ売ってますよね。どこから仕入れたんですか? どうやって売るんですか?」って手口を聞いて、3日後に辞表を出した。それを聞きたいがために働いていたから、ばっくれてもよかったんだけど、それじゃあ仁義がないので、1ヶ月働いて円満退社しました。

横田 正体はバレずに? 

鈴木 まだきちんと書いてないですから。「食えないジャーナリストだ」と言って入ったんですけど、築地には食えない役者や物書きがいっぱいいるので。