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学生たちに「哲学を学べ」と言う理由

有働 単純労働の多くを機械が担い、人は人との関わりあい、対話が必要な仕事に就くようになる。

石黒 はい。それにともなって、教育期間はこれからどんどん延びると思います。100年前の社会では、多くの人が10代の前半で肉体労働に駆り出され、教育期間は短かった。今では大学や大学院に進学する人も増え、社会に出てからも資格試験や仕事に必要なスキルを覚えるなど、30~40代まで勉強が続いています。その期間はこれからさらに延びて、人生の8割くらい勉強し続けなければならなくなるでしょう。日々進歩するロボットやAIの使い方を覚えなければ、仕事にならないからです。

石黒氏とアンドロイド(右) 大阪大学開発

有働 教育期間が延びたぶん、私たちは何を学べばいいでしょうか。

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石黒 僕は、学生たちに哲学を学べと言っているんです。

有働 それはどうしてですか?

石黒 「人間とは何か」という本質的な疑問を考える時間が必要だと思うからです。いまの大学や大学院では、早くから専門的なことを教えますが、教育期間が延びた社会では、基礎的な物の考え方を培い、自分が何をすべきかを選べるようにするのが大事だと思うんです。

肉体や脳をサポートする仕組みができる

有働 哲学を学ぶのは、中高年からでも間に合いますか。

石黒 間に合いますよ。これからもっと技術開発が進んで、衰えた肉体や脳の能力をサポートする仕組みができるようになっていく。そういう技術があれば、何歳まででも学べるし、働けるようになります。日本は人口減少で働き手が減っているので、機械が仕事を奪うどころか、機械に仕事をサポートしてもらわないと豊かさを保てない。ですから、技術でその問題をカバーするのが、我々が次にやるべきことだと思っています。

出典:「文藝春秋」5月号

「文藝春秋」5月号及び、「文藝春秋 電子版」で読める対談「アンドロイドはどこまで人に近づいたか」では、有働さんが石黒教授の“答えにくい”ことに次々と斬りこんだ。次の研究テーマである「人間らしい曖昧さを残したロボット」や、「なぜアンドロイドに似せて整形したか」、そして「初恋の思い出」など、他ではなかなか読めない石黒教授の素顔に迫っている。

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文藝春秋

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アンドロイドはどこまで人に近づいたか