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 そして怪談がささやかれる。

 インターネットにて、火災に遭った「M」「G」両ホテルが、1981年の未解決事件「歌舞伎町ラブホテル連続殺人」の現場だと噂されたのだ。

 まず、「歌舞伎町ラブホテル連続殺人」(以下、ラブホ連続殺人)の概要を説明しておこう。1981年3月、ホテル「ニューエルスカイ」にて女性の絞殺死体が発見されたのを皮切りに、4月には「コカパレス」、6月には「東丘」にて、いずれも女性がパンティストッキングで首を絞め殺される事件が起こる。被害女性らと犯人とはゆきずりの関係、いわば通り魔的な犯行だったせいか、犯人の足取りはいっこうに掴めなかった。

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同一犯の犯行はさらに続いた……

 さらに2週間後、東丘から2軒隣のホテルにて、ホステス嬢が(これも初対面の)同伴男性によって絞殺されそうになる事件が発生。この時は女性の抵抗により未遂に終わったが、件の連続殺人犯らしき男はそのまま逃亡した。

「ラブホテル殺人事件」読売新聞1981年6月14日夕刊より

 これ以降、同一人物によると思われる犯行は終息。そして事件は、未解決のままだ。おそらくこの殺人鬼は、女性を絞め殺す衝動を抑えながら、今もどこかで暮らしているのだろう。

 2016年の連続火災に話を戻そう。

 インターネットではまことしやかに、「M」「G」は「ラブホ連続殺人」の舞台となったホテルであり、未解決事件の被害者の怨念が火事を招いたのだ……という怪談がとびかった。「M」の場合はまた、神棚のロウソクから出火したという状況も、「祟りではないか」との憶測を助けたようだ。

 ただこれらは、完全なデマである。

 この噂が流れた直後、私は当時の新聞報道で住所を調べ、1981年前後の歌舞伎町の住宅地図を参照してみた。その結果、殺人事件のあった3ホテルと、火事に見舞われた「M「G」はまったく別地点に位置していることが判明。さらに付け足せば、当の3ホテルは2000年代までに軒並み廃業しているのだ。

憶測が生んだ都市伝説と流言飛語

 ちなみに私自身、2016年1月15日の時点で、間違いを正すために、これらの情報をツイッターで発信してみたりもした。しかし私ごときの影響力では、デマの広がりを食い止めることはできなかったようだ。都市伝説・流言飛語とはこうして生まれるのだな、と実感したものである。

 それどころか、「ラブホ連続殺人」にまつわる噂はいまだ継続中だ。

「M」が廃業した現在、もう一つの古くからある宿泊施設が「幽霊ホテル」と呼ばれ、「女の霊が出る」と噂されるようになった。その理由として、やはり「ラブホ連続殺人」の現場だからとの憶測が付与されるのだが、もちろんその情報も間違っている。

 これについては、件のホテルが当時現場だった「東丘」「コカパレス」の中間にあることで生じた誤解だろう。また別の噂では「その幽霊ホテルは、東京都健康プラザ・ハイジアの近くだ」とするパターンもある。こちらは現場3ホテルのうち「ニューエルスカイ」だけが2008年まで営業継続していたための混同だと思われる。しかしニューエルスカイ閉鎖後は建物自体が取り壊されたので、やはり明確に事実と反している。

犯行現場となったホテルの跡地付近 ©吉田悠軌