「慰安婦問題」をテーマに物議を醸した『主戦場』、東海テレビの衝撃作『さよならテレビ』――。数々のドキュメンタリー話題作を提供し続ける配給会社・東風が、コロナ感染拡大の影響を受ける全国の映画館、そしてドキュメンタリー映画の存続のために「仮設の映画館」を立ち上げた。代表の木下繁貴さんに聞きました。
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あくまで目標は「閉じること」
――「仮設」なんですね。
木下 そうです、ですからあくまで目標は「閉じること」なんです。
――それが一体どういうことなのか、お伺いしていこうと思います。まずプロジェクトは『選挙』『牡蠣工場』などの「観察映画」を手がける想田和弘監督との間で生まれたそうですね。
木下 東風が配給する想田監督の新作『精神0』の公開を延期するかどうか、監督と一緒に考える中で生まれた企画なんです。ニューヨークに住む監督が、新作の取材対応のために来日したのが3月下旬。この時期はまだ国が緊急事態宣言を出す前でしたが、東京の映画館では大手作品の公開延期が軒並み決定されはじめ、ミニシアター系作品でもちょこちょこと公開延期が決まりはじめていた頃です。『精神0』は5月2日を公開日に決めていたのですが、監督から「この状況で公開したとしても、自分からお客さんに、ぜひ劇場に足を運んでくださいとは言いにくい」と。だから公開延期を考えてもらえないかと、当初は言われていたんです。
――延期も選択肢にあったんですね。
木下 ええ、監督の気持ちはとてもよくわかりました。ただ一方で、私たちは配給会社として全国の劇場、映画館とやりとりもしているため、公開延期が引き起こすダメージについて考えないわけにはいきませんでした。1本の作品が公開延期されることで、その上映を予定していた映画館、特に私たちに関係するミニシアターにとっては「穴があく」。簡単に替わりの作品で穴を埋めることはできませんから、上映機会の損失は、そのまま純粋な収益損失になってしまうわけです。
しかもこの先の見えない状況ですから、延期をしたとして、それがいつまで続くかわからない。そうなると『精神0』だけではない、他の作品の延期も続くわけで、映画館はやっていけなくなります。そうして想田監督と映画館の営業補償になるような仕組みはどんなものだろうと議論を重ねて生まれたのが「仮設の映画館」でした。新作を有料で動画配信することとし、オンライン上でお客さんに「ここで観る」と映画館を選択してもらう。そして、オンライン鑑賞料金として通常料金と同じ1800円を支払っていただくというものです。