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 子宮頸がんは、1年間に日本人1万人が発症して3,000人が亡くなる病気です。約95%がHPVというウイルスが原因で起こりますが、ワクチンを打てばかなりの割合ががんにならずに済む。ところが、日本での接種率は0.3〜0.6%。先進国中最低です。 

――それはなぜですか。 

 国が積極的勧奨をしていないからです。こういった状況を見て、「ワクチンをぜひ打ちましょう」という活動を始めました。私も研究者として「安全で確実なワクチンを普及させるために正しい情報を届けねば」という使命感があったので。 

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 そうしたら、反ワクチン派とバトルするような流れになってしまいました。彼らは国会議員に加え、HIV・肺がん・肝炎などの薬害に取り組んできた弁護士も巻き込んだ運動体になっています。  

――お住まいのアメリカでの反ワクチン運動の状況は? 

 日本よりもすごく激しく、お金も政治力も非常にあります。 

 他方で、ワクチンを推進する声も明確に出ている。日本の厚労省に当たる保健福祉省や疾病予防管理センターなどの規制当局も、製薬会社も「ワクチンはとても効果的だから打とう」という推奨をバンバンやっています。 

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――新型コロナを機に、米国でのワクチンの捉え方に変化は? 

 反ワクチン派は、体感的にはアメリカでも少しなりを潜めています。逆に、なぜかBCGワクチンを打ちたがっています。日本の状況と似ていますね。

高まるWHOへの不信感、どう捉えればいい?

――新型コロナへの対応を巡り、今WHOへの不信感が非常に高まっています。今回のWHOの動きをどう評価していますか? 

 実務面と政治面の評価は分けて考えねばならないと思います。WHOの専門家集団が出す情報は、非常に透明性・信頼性が高いですし、大きなネットワークを活かし各国政府と連携して情報のやり取りを非常にうまくやっていると思います。 

 他方、WHOも人間社会で活動する以上、当然パワーゲームも政治もある。その部分をうまく舵取りできなかった点は反省すべきだと思います。現場がしっかりやっているのに上が政治色を出してしまっている。政治的になりすぎないことが大事だったと思います。 

――今まで、医療デマに対してWHOの公式見解を引用することは非常に威力がありました。しかし今後、標準医療を批判する人々が「新型コロナの時の対応を見ろ。WHOなど信用できない」と言い出すことも懸念されます。 

 大事なのは、政治領域への評価とは切り離して、WHOの専門家がまとめていることや行っている運動はしっかりしたものだということです。 

 もっとも、今回の件によって今までWHOを信用していた人が反対に転ずる、というのは少ない気もします。元々WHOを信用していなかった人が更に不信感を強めるということはあるかもしれません。