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 これらをふまえると、「保守界隈が分裂している」とはとてもいえない。何を言っても安泰で、保守ムラの利権と良い意味で縁の薄い百田氏以外、保守界隈の自称論客は直接政権を叩くことが出来ないため、彼らの大部分は「反中・嫌中」のお家芸に走るか、「布マスク2枚を批判する野党は、何か対案を出したのか? 朝日新聞の通販サイトでも3300円で布マスクが売られているぞ」などと野党・朝日新聞叩きに問題をすり替え、またぞろお決まりの「左翼“口撃”」に走るのが関の山である。今次コロナ禍でも、保守界隈の実相とはこのようなものである。

全世帯に配布される2枚のマスク ©AFLO

繰り出されるであろう「君側の奸」理論

 現状の保守界隈には、確固とした主義主張があるわけではない。ましてE・バークの「保守主義」に根付いた思想や価値観というものはほとんど絶滅している。単にそこにあるのは、彼らが勝手に「左翼的」「反日的」だと認定したものへの反発と逆張りである。

 それゆえ、彼らの敵視する「左翼」が安倍政権に批判的である限り、彼らは政権を支持する。この基本路線はこの8年、揺るぎなく変わらない。仮に安倍政権が保守界隈の「主流的意見」と外れたことをしても、勝手に脳内変換を行って政権擁護を続ける。

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「君側の奸」という言葉がある。主君は英邁で民草のことを思っているが、主君のそばに仕える奸臣(かんしん)のせいで主君の理想や慈悲は骨抜きにされ、以て悪政がはびこるという意味である。1936年、世にいう「2・26事件」で決起した皇道派青年将校はまさにこの発想に取りつかれていた。

 昭和天皇は恐慌で失業や餓死、身売りをする下層農民ら民草の惨状を心痛憂いている。だが、「君側の奸」たる重臣や財閥らが天皇陛下のお心を邪魔している。だから我々はその奸臣を実力で除去しなければならない――。こうした価値観の下で行われた「2・26事件」のスローガンこそ「尊皇討奸(そんのうとうかん)」であった。ところがこの「君側の奸」思想は単なる妄想に過ぎなかった。ほかでもない昭和天皇自らが、決起将校の鎮圧を命じたのである。

 保守界隈は、この「君側の奸」理論に基づいて安倍首相を正当化し続けるだろう。事実、困窮世帯に30万円給付という当初案が、一律10万円に急転変更された際も「元来安倍首相は国民生活を偲びなく思っていたが財務省が邪魔をしていた」という「君側の奸」理論が界隈でもう出回っている。ところが実際は、支持母体に支えられた公明党による「連立離脱」の最終カードをちらつかせた官邸への突き上げが変転の原因であった。

 実はこの「君側の奸」理論は、安倍首相が消費増税を決断した際にもネット右翼、保守界隈で盛んに吹聴、拡散されたのである。「安倍首相は民草の窮状を心得て消費増税には反対だが、財務省の苛烈な妨害にあった」というもの。手あかのついた財務省悪玉論であるが、結局安倍首相と財務省の増税路線が一致しただけ、というお話であった。

 さらにコロナ禍が一服するや、「この危機が民主党政権だったら、その人的被害は数倍・数十倍に悪化していた。安倍政権だからこの程度で済んだ」という“架空の民主党政権論”、“この程度で済んだ論”という妄想的安倍擁護が一斉に噴き出すであろうことを、コロナ禍の只中にある今から予言しておきたい。