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本当に保守界隈が「分裂」しているのか

 こうしてコロナ禍に直面した保守界隈を俯瞰すると、百田氏のように一部で政権を批判する存在が目立って見える一方、他方ではこれまで通りのネット右翼的姿勢をとり続けている。一見するとこの現象はモザイク的とも言え、保守界隈の中に溝や分裂が起こっているかのように観察することができる。

 しかし、本当に保守界隈が「分裂」しているのだろうか。

 政権を批判しているように見える一方で、彼らは「ポスト安倍」への言及や他に持ち上げる相手を見つけられていない。百田氏も〈安倍総理の緊急事態宣言の会見はいいものだったと思う。多くの国民は覚悟もできたし、共に頑張っていこうと思ったと思う〉(4月7日)というツイートでも分かるように、根源的に「安倍離れ」しているわけではない。

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 一部では百田氏のこう言ったツイートを指して「安倍政権という泥船から真っ先に逃げ出した保守」と揶揄されているが、私からするとまったく彼らは泥船から逃げ出す兆候はない。政権批判が飛び出しても、結局は「安倍一択」という状況は変わっていないからだ。

安倍首相と歓談する百田氏(左上)。2016年の「桜を見る会」にて ©文藝春秋

 さらに、百田氏ら一部の“ビッグネーム”以外に政権批判している人物がほぼいないのも特徴である。保守界隈の「ムラ」の仲間内から離脱しても経済的に困らないビッグネーム以外には、政権を批判するというリスクは取れない。それゆえに批判が一部に留まっているのである。

 そもそも、百田氏らの政権批判の主張が目立つのは、政権に批判的になっている一般世論と、百田氏の主張がコロナ禍で重なったことで、メディア(とりわけスポーツ紙)に大きく取り上げられ、実態以上に保守界隈からの政権批判が肥大して見えたに過ぎない。

 実はこれまでも、保守界隈から政権に批判が出ることは数多くあった。とりわけ象徴的なのは、朴槿恵政権下における日韓慰安婦合意(2015年12月)である。あくまで「従軍慰安婦」ではなく「売春婦(*保守界隈呼称・“追軍売春婦”)」だという立場を堅守していた彼らにとって、日韓合意は「従軍慰安婦」の存在を日本側が認めたという事実に於いて、ある種の「屈服」と映った。

日韓合意で「慰安婦」をみとめたことは保守界隈によって許せないことだった ©文藝春秋

 それゆえ、合意発表直後から保守系市民団体らが議員会館、首相官邸、外務省前などで抗議活動を繰り広げたり、保守系雑誌で「安倍さんには失望した」「また韓国に土下座外交か」などの批判が相次いだのである。しかしそれらは国民感情や常識的な日本人の歴史認識とは全くシンクロしないから保守系メディア以外で注目されることもなく、結局しばらくすると立ち消えになっていった。