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 そもそも、生物兵器説は、イギリスのタブロイド紙・デイリーメールに端を発したものであり、それですらも当初はそこまで断定的な書き方では無かった。ところが記事が拡散されるにつれ、「武漢の研究所から流失した」が「武漢の研究所から流失した中国の人工的な生物兵器である」などと置き換えられ、欧米の陰謀論者の間で次第に尾ひれがついたものである。

 生物兵器としての実際の運用でキモになるのは、局所的にばらまいて敵軍兵士を感染させ致死させることだ。感染力が強すぎると自軍兵士までが感染する恐れがある。また兵器としての有効性を考えると、致死率はうんと高くなければならない。つまり生物兵器には「低感染力・高致死率」が求められるのだ。しかし、新型コロナウイルスの致死率は、群を抜いて高い湖北省やイタリアでも10%強。日本や韓国では1%台と低い。一方で感染力は強いのである。

 世界中の専門家がゲノム(塩基)配列を分析した結果、人工的にウイルスが加工された可能性はほぼ完全に否定されている。WHOもこの見解を支持している。しかし保守界隈では、医療関係者でも感染症の専門家でもない人物によって「武漢ウイルスは生物兵器の一種」であるかのような言説が雑誌媒体でまき散らかされている。

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桜を見る会から新型コロナウイルス対応と逆風の続く安倍首相 ©JMPA

保守界隈の「伝統芸」に変化無し

「反中・嫌中」のほかにも、新型コロナ禍にかこつけた野党揶揄も「ルーチン」のごとく保守界隈から聞こえている。曰く、立憲民主党を中心とした野党は「このコロナパニックにおける非常時に、桜を見る会の追及ばっかりやっている」という定型文句である。

 また、朝日新聞批判にもぬかりない。2020年5月号の保守系雑誌『月刊Hanada』の鼎談「武漢肺炎大闘論!」でも櫻井よしこ氏らが、朝日新聞は政府の対応を後手後手だといいながら全国の小中高校などへの一斉休校要請のときは唐突だと批判していた、と強調している。要するに「野党や朝日新聞は批判ありきで建設的ではない」ということなのだろう。

 嫌中、野党揶揄、朝日新聞批判。保守界隈のこうした攻撃は、すでに「伝統芸」である。新型コロナウイルスという難題を前にしても「お家芸」が続き、大きな変化があるわけではない。結局のところ、コロナ禍に仮託した「左翼批判」の「伝統芸」「お家芸」が継続されているだけだ。