保守界隈の批判の原動力は…
一方で、新型コロナウイルスの感染拡大という世界的な危機に対しても、日本の保守界隈ではおなじみの光景が繰り広げられている。そのひとつが、「反中・嫌中」という「隣国嫌悪」である。
思えば、前述した通り早期に中国からの旅行者や帰国者の入国制限措置を講じたアメリカの感染者数は、世界で最も多い約114万8000人・死者6万6700人(5/4日現在)を記録した。航空機全盛でヒト・モノが広範囲に一瞬で移動するグローバル社会では、仮に早い段階で当該地域からの入国者を謝絶しても瞬く間に潜伏期間にある人々が接触者にウイルスを感染させる。
その意味で、今次新型コロナウイルスはその発生地こそ中国湖北省武漢市であるが、結果だけ見れば中国だけにこだわって警戒するのでは、水際対策として不十分であったと言わざるを得ない。確かに事実上の島嶼国家である台湾などではそういった措置が奏功した例もある。が、それは国のサイズが小さいからこそ著効した対策で、あらゆる方面から人々が流入してくる大陸国家や大国ではあまり意味をなさなかった。
我々は、世界中からの瞬間的な人の移動(と感染)を考慮しなければならない、という21世紀社会の難問に直面していたのである。にもかかわらず、保守界隈はことさらに中国がすべて悪玉であると「戦犯」狩りを続け責任を追及した。彼らが先の大戦を「太平洋戦争」ではなく「大東亜戦争」と金科玉条の如く呼称し続けるがごとく、保守界隈では現在でも新型コロナウイルスを頑なに「武漢ウイルス」「武漢肺炎」と呼び続けている。理屈ではなく中国への感情的な嫌悪が批判の原動力になっていると見做さなければならない。
新型コロナウイルスは生物兵器なのか
さらに保守界隈では「武漢ウイルスは同地の研究所から流失した生物兵器」というトンデモ論が、まるで事実のごとく語られるまでになった。
この新型コロナ生物兵器説を一度、落ち着いて考えてみよう。4月14日、アメリカのワシントン・ポストに、在中アメリカ大使館職員が武漢の研究施設を訪問した際、安全管理への懸念を報告していたという寄稿記事が掲載された。トランプ米大統領も「徹底的な調査を進めている」と語った。一見すると、生物兵器説が後ろ盾を得たように見えるが、アメリカ政府は「流出した可能性を調査する」とはいっていても、「生物兵器だ」とはいっていない。