私の中の何かを確実に変えた息子の涙
「『ベイスターズの勝率が内川の打率より低い』とか言われた時さ、内川はつらかったと思う。だって考えちゃうもん、自分が打ってチームが勝てないとなると、俺なんなんだろうって。他のチーム行きたいなって思うと思う」
私が「優勝」について悶々としていると、4月に高校生になったもののまだ一回しか学校には行けていない長男が言いました。う、内川……と思う母の心境をよそに、息子は続けます。「今は俺、ただ単に野球がやりたいけどね。でも野球やったら、やっぱ勝ちたいと思うよ」。
ああプレイヤーたちは、このシンプルな思考のもとにプレーしてる。「勝ちたい」、そしてその証としての「優勝」がある。思い出しました。この子は小学生の頃、京セラでエレラが打たれてサヨナラ負けした時、部屋で一人泣いていたのでした。オールドクソファンである母は、自分が傷つきたくないが故に、球団に、野球に「忖度」しまくり、そういうものだ、ベイスターズはそういうものだと言い聞かせ、現実を直視しないようにしてここまで来てしまったというのに。手練れのファンと思われたくて、ただただ空気を読んできたというのに。先生、あの時の息子の涙は、私の中の何かを確実に変えました。一粒の涙なのに、ずっと枯れずにそこにある。ズルく、その場しのぎで、逃げたいな、逃げちゃおうかなと思う時、あの、肩を震わせ泣いている息子を思い出すんです。
「自己受容だな」と息子は言いました。「ベイスターズが優勝するために必要なことってなんだろうね」と、この対戦テーマを子どもに全振りした私に、そう言いました。大丈夫か、変なオンラインサロンとか入ってないだろうな。「いやこれは、中学時代の監督が言ってたのパクった(笑)」。「自己肯定も大事だけど、まずは自分の現実をちゃんと受け入れろって。へたくそな自分に落ち込むんじゃなくて、へたくそな自分を受け入れて、そっからどうすればいいのか考えなさいって」。「ベイスターズが優勝するために必要なことはわかんねえけど、やっぱ練習するしかなくね?」。
6月19日、2020年のシーズンが開幕することが決定しました。無観客でのスタート。どんな状況であったとしても、選手たちはただ「勝ちたい」と願い、「優勝したい」と願うのでしょう。そこに嘘がないからこそ、私たちファンは安心して夢が見られる。バカみたいにメンタルを揺さぶられながら、それでもまた明日勝つ姿を観たいと思う。素人丸出しの批判もできる、だってこっちだって本気だから、本気で優勝したいと思っているから。
先生、オリックスが、ベイスターズが、もし優勝したら私たちどうなっちゃうんでしょう。すんごいみっともなくはしゃいだり、クールに振る舞いながらやっぱりはしゃいだりしちゃうんでしょうか。長くその喜びから遠ざかっているから尚更、他のチームが味わったことのない、特別な「優勝」がそこにある気がします。そして最後になりましたが、ベイスターズが優勝するために必要なこと、それは、
阪神に勝つことです。
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