「すみません、母親になって涙もろくなって」
雅子さまの“母の涙”として思い起こすのは、2002年4月、愛子さまご誕生から4カ月後の記者会見でのご様子だ。関連質問で、記者とこのようなやり取りがあった。
――第一問の関連で妃殿下に伺います。大変不躾でデリカシーを欠いた質問であるのかもしれませんけれども、妃殿下は生まれてきてありがとうという気持ちで胸が一杯になりましたとおっしゃった時に、私、涙ぐまれたように拝見いたしたんですけれども、その胸中にですね、どんな思いがおありだったのかと、難しい質問ですが。
「難しいですね、やはり。言葉のとおり、やっぱりその生まれてきて本当にありがとうっていう気持ちですね。やっぱり非常に、なんて言ったらいいんでしょうね。胸が一杯になるような、そういった体験かしらと思いますけれども。すみません、母親になって涙もろくなって」
「お産がとても楽しかった」
雅子さまの愛子さまに対する思いの深さは、元東宮職御用掛で、雅子さまのご妊娠、ご出産における医師団の責任者を務めた堤治氏の証言からも伝わってくる。
「雅子さまの日頃の努力の甲斐もあり、出産は大変スムーズに進み、産後すぐに雅子さまに愛子さまを抱いていただきました。雅子さまは笑顔で、優しい母親の顔をされていました。
生まれたての愛子さまを抱いた陛下は、少々肩に力が入っていたようです。おふたりは目と目で何か通じ合うように見つめ合い、後に会見でおっしゃられたように『生まれてきてくれてありがとう』という喜びに満ちた表情をされていらっしゃいました。雅子さまも愛子さまも経過が順調で安定しておられたので、しばらくの時間、お三方だけでお過ごしいただく時間を取ることができました。(中略)
ご退院の挨拶の折、愛子さまを抱いた雅子さまが、『お産がとても楽しかった』とおっしゃったのが印象に残っています」(「文藝春秋」2019年11月号)
両陛下は愛子さまのご成長を大切に見守られてきた。2013年10月、愛子さまが小学校生活最後の運動会で組体操を披露された時、陛下はカメラで運動会の様子を撮影されていた。組体操の形が決まると、両陛下は大きな拍手を送られて、雅子さまはじっと愛子さまを見つめ、目を潤ませていらっしゃった。