九死に一生を得た作家もいた。新人賞を受賞したばかりの彩瀬まるは一人旅の途中、常磐線の列車の中で地震にあう。線路に降りて逃げる途中に津波に襲われた脱出劇やその後のボランティア経験、お世話になった人を訪ねる紀行を集めた本が『暗い夜、星を数えて』(新潮社)。彼女は5年後『やがて海へと届く』(講談社)で小説に昇華させた。
木村航『しおかぜ荘の震災』(双葉社)は三陸の高台に建つ介護施設を舞台とした小説。入所している22歳の難病患者、藤島環が主人公だ。幸いにも津波はここまで及ばなかったが食事も排泄も他人を頼らなければ生きていけない患者たちは茫然とするばかりだ。だがそれではいけない、生かされているだけじゃダメなんだと環はある決意をする。重いテーマをコミカルに描き読後感も爽やかだ。
さて1年、2年と経つうちに被災者たちの生活も生存「survive」から、生活「live」にシフトしていく。壊滅的な被害にあった工場や農家、漁師たちも生活の立て直しを始めた。
佐々涼子『紙つなげ!』(早川書房)は震災直後、壊滅的な被害で再建が危ぶまれた日本製紙石巻工場が再生するまでを描いた苦闘の物語。この工場が再起しなければ日本の出版物の多くが出ないという危機の中、機械をわが子のように愛する工場の職人たちの奮闘が描かれている。書籍に関わる者や読書好きは必読だ。
原発から20キロ以内には多くの動物が残されペット、牛、豚、鶏などがやむなく殺処分された。眞並恭介『牛と土』(集英社)は殺処分を命じられた牛たちを何とか生かせないものかと奮闘する飼育者たちに迫った。愛情込めて育てた家畜を簡単に殺してたまるか。この時の選択が現在、長期間の実験データとして重要視されているのは喜ばしい。
放射線の影響を恐れ、多くの母子が避難した。海南友子『あなたを守りたい』(子どもの未来社)は原発事故を取材中に妊娠を知った映画監督が、子どもを守るために故郷を離れた母子たちの心中を聞き取ったルポルタージュ。彼女たちの恐れは逃げることでしか払拭できなかった。その気持ちがよく分かる。
そして5年が過ぎた。小学5年だった少年少女たちも高校生だ。『16歳の語り部』(案内役・佐藤敏郎 ポプラ社)は、教師や親から悲しむ人がいるから震災のことは人に話すな、と強いられてきた子どもたちが、あの経験を今後の防災に役立てたいとまとめた一冊。視点が違えば見えるものが違う。子どもだからこそ見えた現実に気づかされる。
熊谷達也『希望の海』(集英社)は震災1日前と震災後2年経った後の人々を描いた連作短編集である。愛し合ったり憎しみ合ったりしていた普通の人の生活が、あの日を境に変わってしまう。辛いことがあったが、前向きに生きていこうという気持ちにさせられる作品である。