4月28日、日産自動車が2020年3月期決算の業績見通しを下方修正すると発表した。営業損益は2月に予想した850億円の黒字から350億~450億円の赤字に、当期損益も650億円の黒字から850億~950億円の赤字にそれぞれ落ち込む見通しだ。日産が赤字に陥るのは、リーマンショック直後の2009年3月期決算以来11年ぶりである。
いま、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大によって、各自動車メーカーは米国や中国などの主要拠点で生産停止に追い込まれている。日産も例外ではなく、生産が止まった米国工場を5月中旬から再稼働させる予定だったが、再稼働時期をさらに延期した。自動車メーカーは、巨大工場に多数の人員を抱えているため固定費が高く、いったん稼働率が落ち始めると一気に業績が悪化する。
さらに、日産の業績悪化の要因は新型コロナウイルスの影響だけではない。カルロス・ゴーン前会長が経営の実権を握っていた時代に、新興国を中心に利益を伴わない無謀な生産能力の拡大戦略を展開した「負の遺産」を解消できていないのだ。新型コロナウイルスよりも、むしろこちらの影響の方が深刻だ。
1兆円近い当期赤字に落ち込む可能性も
昨年12月、新社長に就任した内田誠氏はこうした「負の遺産」を解消するため、構造改革に取り組もうとしてきた。ところが、その矢先に新型コロナウイルス禍が襲い掛かった構図だ。
日産幹部が危機感を露わにする。
「工場の閉鎖や人員の削減などやるべき構造改革は分かっていたのに、内田社長の意思決定が遅くて改革の動きが鈍くなっていた。そこに新型コロナの影響が加わり、ずるずると後退している状況で、今後、どれだけ業績が落ち込んでいくか分からない」
4月28日に発表した業績見通しでは、構造改革に伴う過剰な生産能力・人員の解消などに必要となる引当金が計上されていない。むしろ新型コロナウイルス禍による業績の落ち込みよりも、この構造改革に伴う引当金の方が大きくなる見込みで、「それを入れれば1兆円近い当期赤字に落ち込む可能性がある」(同前)といった見方も浮上している。
台数拡大路線に変貌した「ゴーン経営」
いまの日産が抱える「負の遺産」は、2010年代前半から始まっていた。ゴーン氏はこの頃から新興国への生産能力拡大のための投資を加速させ、収益よりも台数拡大を目指してきた。これによって収益を重視する従来の「ゴーン経営」が変貌していったのだ。