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 収益源となる北米でも、値引き販売によって台数を伸ばした。特に2013年頃からは、新車開発への投資を絞り、販売規模拡大のために経営のリソースをつぎ込んでいった。だが、このツケは大きく、日産は売れ筋の車種が乏しくなったばかりか、安売りによってブランド価値が毀損した。これによって、さらに安売りせざるをえないという最悪の負の循環に陥ったのだ。

頓挫した「リカバリー計画」

 こうした「ゴーン戦略」の失敗の結果、世界で生産能力が700万台あるにもかかわらず、実際の販売は500万台程度しかない状況に落ち込んだ。

カルロス・ゴーン氏 ©文藝春秋

 昨年7月、こうした状況を立て直すべく、西川廣人社長(当時)が北米戦略の見直しや、過剰な生産能力の解消を目指すリストラ策を発表し、関潤専務(同)がそのリカバリー計画を担当した。1万2500人の人員削減や稼働率の低い工場の能力縮小によって生産能力は何とか600万台に落とす目途はついた。

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 ところが、リストラ策発表の2カ月後に、西川氏が自身の報酬問題で引責辞任に追い込まれると、昨年12月には副COOに昇格して引き続きリカバリー計画を担当するはずだった関氏も就任から1カ月も経たずに日本電産に転職して日産を去ることとなり、社内の混乱は深まった。

「5000億円の融資枠」で十分か?

 こうした逆風下の日産を襲ったのが、新型コロナウイルス禍による生産・販売減だったのだ。日産の手持ちのキャッシュは減少し、4月になると、政府系金融機関や都市銀行に対し、総額5000億円のコミットメントライン(融資枠)の設定を要請した。

 だが、「5000億円の融資枠」といっても、十分とはいえない。前述したように自動車メーカーは固定費が高いため、出費額も大きい。トヨタ自動車は1カ月に約1兆円のキャッシュが必要と言われており、日産も月に3000億~4000億円程度のキャッシュが必要と見られる。つまり、「5000億円の融資枠」といっても、せいぜい2カ月ほどの資金繰りを支える程度に過ぎないのだ。

©文藝春秋

 そもそも日産は、自己資本に対する有利子負債の割合が日本の自動車メーカーの中では最も高く、財務体質が悪い。リーマンショックを超えると言われるほどの、新型コロナウイルスによる経済危機の局面では、手持ちキャッシュが少なく、財務体質が悪い企業ほど経営危機に陥りやすいのは明白だ。