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 大きな三角屋根を持ち、堂々とした面構えの東武日光駅の駅前広場にはバスのりばがあっていくつか土産物店や飲食店があるのだが、バスを待っている客の姿はほとんどないし、土産物店も店をほとんど開けていない。飲食店は「テイクアウトのみ」として辛うじて営業を続けている状況だ。そのひとつに入って聞いてみると、「緊急事態宣言が出てからはずっとこういう感じですね。お客さんもほとんどこないですよ」。

駅前はほとんど人が歩いておらず、お店も閉まっているところばかりだった
 

 高尾山が東京都民の憩いの場だとすれば、日光はインバウンドで賑わう観光地でもある。最近になってインバウンドに目覚めたわけではなく、明治時代よりすでに世界中から観光客がやってきた由緒あるインバウンド観光地。東武日光駅の駅舎の2階にはムスリムの人たちのための礼拝室が設けられているくらいだ。が、もちろん今の日光にイスラム教の方々が観光で訪れることはない。

 昭和のはじめから国鉄と東武が激しく客を奪い合った日光詣。JR日光駅はともかく東武日光駅前はたくさんの観光客で賑わっているのが当たり前の光景だった。しかし、今はその観光客の姿はない。雨降りとあわせて、とにかく寂しい日光の駅前である。

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「お客がいなくてもダイヤ通り電車は走る」

 1時間ばかり日光駅の周辺をうろついてもすることがないので、東武に乗って帰ることにする。改札口の横には「新型コロナに負けないぞ! がんばろう!日本!!! がんばろう!日光市!!!」と書かれたメッセージボード。コロナへの憎しみをいろいろな人が書き込んでいた。きっと、数少ないながらも日光を訪れた人たちが書いたのだろう。

東武日光駅のメッセージボード

 日光発の特急までは時間があったので、普通列車に乗って下今市駅に向かい、そこから東武鬼怒川線からやってくる特急に乗り換える。1時間も前からホームについて出発待ちをしている特急の車内からは、清掃のおばちゃんたちが降りてきた。ほとんどお客はいないが、それでも終着駅ではしっかりと車内清掃。きっと消毒作業もしているのだろう。コロナに襲われて世界は非日常。しかし、そうしたときでもいつもの通り列車の中をキレイにし、そしてダイヤの通り電車が走る。お客が乗っていようが乗っていまいが、電車は走る。そこに、鉄道会社のちょっとした矜持のようなものを感じつつ、東武特急で東京に戻ったのであった。

【前回】京王線の終着駅「降りたのは5人だけ…」 緊急事態宣言で“GWのド定番”高尾山はどうなった? を読む)

取材の帰りは東武日光駅から

写真=鼠入昌史