「もうお金をかけて空気を運んでいる、そんな状況になってしまいましたからね。お客さんが乗っていないですから……」
銚子電鉄の代表取締役社長・竹本勝紀さんは苦笑交じりにこう話す。銚子電鉄は4月11日以降、列車の数を通常ダイヤから7本、約3割減らして運転している。その理由はもちろん新型コロナウイルス。休校によって日常的な利用客の大半を占める学生は車内から姿を消し、観光客など論を俟たない。3月半ばの時点で利用者数は通常より2割減、今に至っては9割減という有様だ。
「1日の運輸収入が4800円だったことも……」
「ひどい日には1日の運輸収入が4800円だったこともありました。1日中走っても10人くらいしか乗っていない。ほとんど運んでいるのは空気です。そういう状況がずっと続いています。だから運転本数を減らすというのは、まあ仕方のないことなのかな」(竹本社長)
列車を減便するとかえって混雑が悪化して“密”を招く……などというのは大都市の通勤電車に限ったお話。もとより乗客の少ないローカル線では3割くらい運転本数を減らしてもどうということはない。それどころか、今も運転を続けている列車も乗せているのは空気ばかり。言葉を選ばずに言えば、鉄道会社としてはもはや“死に体”である。が、竹本社長は続ける。
「でもね、コロナが終わったときにまた乗って貰えるように、走らせ続けないといけないですね。いざとなれば、私も運転しますよ」――。
わずか6.4km 経営の苦しさと背中合わせの歴史
銚子電鉄が走る町、千葉県銚子市は醤油づくりと漁業が盛んな小さな港町。その町中を縫うように6.4km、銚子電鉄もまた小さな電鉄会社だ。JR総武本線の終点・銚子駅から銚子電鉄に乗り継ぐと、仲ノ町駅付近では醤油工場の間を通り抜ける。
本銚子駅を過ぎると車窓は市街地から田園地帯、当地名産のキャベツ畑に様変わり。進行方向左手前方には小さく犬吠埼灯台も見える、関東最東端の町だ。終点の外川駅は白熱電球のよく似合う古きよき木造駅舎。走っている電車もレトロ、というよりもむしろ“ボロい”と言うほうが似合うような古びた車両だ(もちろんホメてます)。