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 銚子電鉄の姿勢はある意味で潔い。電車の運賃収入だけでどうにかなるようなレベルではないので、売れるものなら何でも売る。電車運行に関する“音”を集めて「着銚電音」として売ったり、イベント列車を走らせるのもそうしたもののひとつだ。根っこにあるのはもちろんこれまで経営を支えてきた“ぬれ煎餅”。

「ぬれ煎餅とかまずい棒が売れることで、実際に銚子に来てくれるお客さんも増えるんですよね。それで犬吠駅の売店や直営の“ぬれ煎餅駅”でも買って帰ってくれる。ただ、今回はそういうのがまったくないですからね。あたりまえですが、ほとんど誰も、来てくれなくなりました」(竹本社長)

君ヶ浜駅

 

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終点の外川駅

新商品は「お先真っ暗セット」「穴あきマフラー」

 しかし、こういう危機も銚子電鉄にとってはある意味初めてのことではない。とうぜん、オンラインショップに力を入れてぬれ煎餅を売るとともに、新たな商品の販売も始めている。いくつかのグッズを詰め合わせた「お先真っ暗セット」、小さなハート形の穴が空いた「穴あきマフラー」などがそうだ。

「当社の経営に穴が空いている、と(笑)。もともとはホワイトデーにあわせたダジャレ商品だったんですけど、イベントができなくなったのでこの機会に。なにせ電車だけだと1日5000円。オンラインショップで売っていかないと本当に先がない。だから社をあげてオンラインショップに注力しています」(竹本社長)

仲ノ町駅

社員総出で袋詰め「明日も電車を走らせるために」

 こうした奇抜な新商品がSNSなどで話題になって、4月11日以降の10日間で3000件を超える注文が集まり、売上は1000万円を超えたという。かつてのブームと比べればまだまだ小さい額だが、それでも全国から“応援”の気持ちが寄せられていると思えば心強い。コロナ禍で訪れる観光客はまったく姿を消しても、忘れ去られたわけではないのだ。

「事態が収まってまた来てもらえるようになったときに忘れられていたら困りますから(笑)。だからどんどんユニークな商品を考えては売っていくので楽しみにしていてください。もちろんぬれ煎餅も。ダジャレばかりですけど、こういうご時世ですからちょっとでも『くだらないなあ』と笑ってもらえれば」(竹本社長)

 千葉県の東端、醤油づくりと漁業が盛んな港町にある煎餅屋、もとい電鉄会社は今日も今日とて煎餅を焼く。開業から約100年、奇抜なアイデアで何度も瀕死の状態から蘇ってきた銚子電鉄は、コロナ禍にも負けずに煎餅を焼き、社員総出で商品の袋詰めと発送作業。すべては、明日も電車を走らせるために――。

 

写真=鼠入昌史