文春オンライン

「運輸収入1日わずか4800円でも…」千葉のローカル鉄道が狙う“ぬれ煎餅の奇跡、再び”

2020/05/04
note

ピーク売上4億円「ウチはぬれ煎餅屋(笑)」

 ちなみに、ぬれ煎餅ブームに火が付いたきっかけはTV番組の『はなまるマーケット』。その放送第1回のゲスト・山田邦子が“おめざ”として紹介したのがこのぬれ煎餅だった。

「2000年代半ばの第2次ブームはもっと凄かった。オンラインショップには1万5000件を超える注文が寄せられて、売上は実に4億円。鉄道事業収入が1億2400万円程度ですから、ぬれ煎餅販売の規模の大きさがわかってもらえると思います。だから、もうウチは“ぬれ煎餅屋”なんですよ(笑)」(竹本社長)

名物「ぬれ煎餅」を焼く千葉ロッテの小林雅英投手(当時)。2007年「銚子電鉄サポーターズ」発足の式典の際に撮影 ©共同通信社

 この第2次ぬれ煎餅ブーム、4億円も売れてそれこそ濡れ手に粟じゃないかと思うかもしれないがそうではない。むしろ廃止一歩手前という絶望的な状況から抜け出した“奇跡”であった。

ADVERTISEMENT

「社長の逮捕&2億円の借金」を救った“ぬれ煎餅の奇跡”

 昭和30年代に千葉交通傘下に入った銚子電鉄だったが、1990年には千葉県内を地盤とする不動産会社の傘下に移っていた。しかし、この不動産会社はバブル期の投資のツケがたたって1998年に経営破綻。さらに2006年には当時の社長(破綻した不動産会社の社長でもあった)が、1億円を超える業務上横領の容疑で逮捕されてしまう。この当時、すでに銚子電鉄は2億円の借金を抱えていた。そこに横領された1億円が加わった。そうした中でも公共交通機関としての使命をまっとうするためには車両や施設の保守・修繕が欠かせない。その最低限のカネすら捻出できるかどうか、という状況での“第2次ブーム”だったのだ。

 

 ホームページのトップに載せた「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。」の名文句。これが2ちゃんねるなどでバズリ、大ブームにつながった。このブームがなければ、銚子電鉄の命運はその時点で途切れていたことは間違いない。港町の小さな電車を救ったのは、間違いなく“ぬれ煎餅の奇跡”なのである。

「まだまだアイデアがあるんですよ、ぜんぶダジャレですけどね」

 とはいえ、このぬれ煎餅のブームでどうにかなるほど世の中もローカル線経営も甘くない。ブームが一段落した2011年には東日本大震災も襲う。それでも地域の公共交通の担い手として、電車を走らせ続けるためにぬれ煎餅に次ぐ新商品を矢継ぎ早に送り出してきた。そのひとつが、2018年にヒットした「まずい棒」。味がまずいのではなくて、“経営がまずい”にかけたいわゆるダジャレ商品である。考案したのは竹本社長。

銚子電鉄の「まずい棒」。こちらはスーパーまずい棒(炭火地鶏味)15本入り×1袋セット(税込745円)

「私の頭の中にはもっともっとアイデアがあるんですよ。ぜんぶダジャレですけどね。『鯖威張る弁当』はウチの生き残りをかけたサバイバルにかけたものですし、今はちょうど『電車を止めるな!』という映画も製作中。あの手この手でやり続けなければダメなんです。同じことは通用しませんからね」(竹本社長)