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「運輸収入1日わずか4800円でも…」千葉のローカル鉄道が狙う“ぬれ煎餅の奇跡、再び”

2020/05/04

 わずか6.4kmという短い路線、そして小さな港町の電車。とうぜん、銚子電鉄の経営は苦しい。それも昨日今日はじまった苦しさではなくて、開業以来まるで業のように背負い続けてきた苦しさである。そして銚子電鉄の歴史は、その経営の苦しさを乗り越えてきた歴史でもある。

レトロな車両が走る

“再建”、空襲被害、そして廃止危機……

 現在の銚子電鉄の路線開業は1923年。ただ、その少し前にほぼ同じ場所に銚子遊覧鉄道という鉄道があった。1913年の開業直後から赤字が続き、わずか4年で廃止されている。その銚子遊覧鉄道の出資者たちが諦めてたまるかとばかりに“再建”したのが今の銚子電鉄なのだ。戦時中に空襲被害も受けているが、昭和20年代は短い黄金時代。モータリゼーションの波が押し寄せる少し前のことである。

 クルマが銚子の町にも普及して路線バスも整備されると、昭和30年代には早くも廃止の危機が襲ってくる。1960年、京成グループのバス会社・千葉交通の傘下入り。ほとんど銚子電鉄の電車と並行してバスを走らせていた千葉交通は、ライバルだった銚子電鉄を買収して間もなく廃線を決定した。このときは地元住民の熱意もあって廃止を免れている。まだ地方都市の人口が増えている時期だったことも関係しているだろう。

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電車の赤字を補う“空前の大ヒット”とは?

 この時期を過ぎるといよいよ経営は本格的に厳しさを増していく。わずか6.4kmの電車だけではとうてい立ち行かぬ。そこで1976年には『およげ!たいやきくん』にあやかってたい焼きの販売を開始し、関連事業(というか食品事業)で収益を得て電車の赤字を補うスタイルを開拓していった。そして平成に入ってしばらくたった頃、空前の大ヒットを生み出す。名物・ぬれ煎餅である――。

銚子電鉄の名物「ぬれ煎餅」。こちらは箱入り3種セット・12枚入(税込1080円)

「ぬれ煎餅は1995年から扱っています。第1次ブームと我々は呼んでいるんですが、1996~1998年頃にはメディアにもよく取り上げられてかなり売れました。年間で2億円ですから、大したものですよね」(竹本社長)