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“9割減便”のJALとANA「どっちが危ない?」「現金が底をつくまであと何カ月?」

公認会計士が分析する“コロナショック”

2020/05/12

 それでは、売上減少によって利益がどのくらい減少するのかを試算してみよう。費用には、売上の増減に伴って変動する「変動費」と、売上の増減にかかわらず固定的に発生する「固定費」の2種類がある。例えば、飛行機を飛ばすための燃料費は、減便すれば減ってくれる「変動費」だ。これに対して、人件費や航空機リース代は減便しようがしまいが毎月発生する「固定費」である。

 費用のうち変動費と固定費の構成割合を確認することで、売上減少が利益にどのくらいの影響を及ぼすのか分かる。各費目の種類で変動費と固定費を区分けする方法もあるが、残念ながら外部公表資料では細かい費目までは開示されていない。そこで、過去の売上高と費用の金額をもとに、売上増減に対する費用増減の感応度を計算し、変動費と固定費を分解してみた。

 すると、JALは変動費が35%で固定費が65%、ANAは変動費が20%で固定費が80%という結果となった。少々粗い試算ではあるが、実態と大きくかけ離れてはいないだろう。

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(両社の過去2年分の決算短信及び四半期決算短信をもとに筆者試算)

 つまり、両社を比較すると、JALよりもANAの方が、固定費の割合が高いコスト構造になっている。固定費の割合が高いということは、売上が減少しても費用はあまり減ってくれないため、赤字に陥りやすい経営体質といえる。

 具体的にどのくらいの売上減少で赤字転落となるかを試算したところ、ANAは4.9%となった。つまり、2020年3月期の売上高から、約5%減っただけで赤字転落となる計算だ。

 一方、JALは11.7%なのでANAよりましだが、わずか1割強なので五十歩百歩といえる。70~95%の減便をする2社なので、2021年3月期の赤字は避けられないだろう。

JALとANA、あと何カ月で現金が底をつく?

 もちろん、赤字になったとしてもキャッシュ余力があれば事業を継続することはできる。逆に赤字にならなくてもキャッシュが底をつけば経営破綻してしまう。今回のような緊急事態においては、保有する現預金残高と今後の現金流出額が企業の明暗を分ける。そこで、JALとANAのキャッシュ余力を試算してみよう。

 JALは2020年3月末時点で3,291億円の現預金を持っている。ここから毎月どのくらいキャッシュが減っていくのだろうか。

 減便したとはいえ売上はゼロではない。毎月の売上が7割~9割減とすると、月間売上(収入)は約219億円が見込める。その場合の変動費と固定費(現金支出を伴わない減価償却を除く)の合計は毎月663億円と試算されるので、およそ444億円の現金が毎月減り続けることになる。ここから言えることは、JALは何も手を打たなければ約8カ月(今年11月中)でキャッシュが底をついてしまうということだ。

(JALの過去2年分の決算短信及び四半期決算短信をもとに筆者試算)

 ANAの方はもっと深刻だ。