『米中激突 戦争か取引か 』(陳破空 著)――著者は語る
「米中関係は、ロシアも含めた米露中の三国関係の中で捉えなくてはなりません。これは『現代版の三国志』なのです。一見、予測不可能なトランプも、中国には巧みに振る舞っています」
こう語る著者は、中国四川省生まれ。広州から天安門民主化運動に呼応し、リーダーとして二度投獄され、その後、米国に亡命。現在はニューヨークに在住し、テレビ・ラジオで活躍する政治評論家だ。
「トランプは、二つの強力な対中カードを持っています。ロシアカードと台湾カード。72年のニクソンの電撃的訪中以降、米国は『米中vs露』という戦略を取ってきました。『一つの中国』を受け入れたのも、そのためです。ところが、トランプ政権の誕生によって、45年も続いた米国の戦略が転換しつつあります。これに習近平は焦りを感じているのです」
先日のG20でも、プーチンとは長時間会談し、さらに極秘会談もしていたトランプだが、習近平には冷淡だった。
「トランプ政権発足後、米露接近を警戒する習近平は、米国にすり寄りました。北朝鮮問題を米中接近のために利用したのです。これによって当初は『米中友好』の雰囲気が醸し出されました。しかし、北朝鮮問題は簡単ではない。その後、独自に北朝鮮を援助するロシアの介入もあり、中国の中途半端な目論みは崩れ、トランプも中国への批判を強めます」
5月下旬以降、トランプ政権は、南シナ海への軍艦派遣、台湾への武器供与、北朝鮮問題での中国企業への経済制裁といった対中強硬策を次々に打ち出した。
「しかし、秋に共産党大会を控えた習近平は、国内の対抗勢力に『対米外交の失敗』という攻撃材料を与えるわけにはいきません。米露間にはない密接な経済関係が米中間にはあります。習近平は、これを利用して米国への接近を狙っています。米国産コメの輸入解禁に合意したのもその現れです。経済問題の解決を糸口に米中関係全般を改善したいのです」
文学志望だった陳氏。時代の巡り会わせで政治に関わることになるが、元来の文学的センスは健在だ。テンポの良い「漢文調」の文体が小気味よく、本書を読めば、昨今の錯綜した米中関係の背後にある構図がスッキリ見えてくる。
「トランプも米露接近に反対する敵対勢力を国内に抱え、『ロシア疑惑』の行方はどうなるか分かりません。しかし『米露vs中』というトランプの基本戦略が変わらない以上、現代版の三国志で、今後とくに追い詰められるのは中国なのです」