日本でもクラスター対策のために来客者名簿の作成を行っている店舗があるが、その連絡先が本当のものなのか確認しないと、役に立たない事がよく分かる。逆に言えば、携帯電話の連絡先が本当なのかをその場で確認して名簿の信頼性を高めれば、万が一集団感染が起きたときには、封じ込めのための強力な武器になるだろう。
一方で今回のケースでは、性的少数者が集まる店だったという特殊な状況があるため、自ら望まない形で性的嗜好が明らかにされてしまう深刻な人権侵害「アウティング」が起きる懸念が指摘されている。だが地元自治体は防疫のために突き進んだ。警察力を使って客全員を探し出すと宣言し、自ら名乗り出ない場合は200万ウォン(約18万円)の罰金を科すとしている。さらに通信会社に対し、クラブ周辺の基地局に接続された携帯電話情報の提供を求め、1万人ほどの携帯電話情報を入手したという。名乗り出ない客に強烈なプレッシャーをかけており、早晩ほぼ全ての客のあぶり出しと検査が行われる事だろう。また他のクラブなど全ての夜の遊興施設に対しては、罰則付きで人が集合することを禁じ、実質的に営業禁止にするという強い対応を取っている。
このように、韓国政府はPCR検査網に加えて、強力な強制力が伴う命令や警察力を動員して接触者の特定を行っている。これだけの事をやっても、今回の集団感染を押さえ込めるのか、まだ見通しが立っていない。韓国のように強制力が伴う措置や接触者情報の収集が出来ない日本は、どうやって緊急事態宣言後に集団感染を防ぐのかはより切実な課題となる。各店舗が防疫に役立つ信頼性の高い来客名簿を作成出来るよう、電話番号記載の際の確認ルールや、感染者が出た際の防疫当局への名簿提出を予め客に認めて貰う条項が入った名簿のひな形を政府が作成するなど、今からでもやれる事はあるのではないか。