新型コロナウイルスの感染が収束し始め、5月6日からは日常に戻りながら生活の中で防疫を実践する「生活防疫」政策に転換した韓国。しかし、その矢先に再び集団感染が発生し、再流行の兆しを見せている。

 今回の震源地は、ソウルの代表的な繁華街である梨泰院(イテウォン)にある複数のクラブだ。

 最初に感染が発覚したのは、ソウルのベッドタウン・京畿道龍仁(キョンギド・ヨンイン)に住む20代の男性。韓国のゴールデンウィーク翌日にあたる5月6日にコロナ感染が判明したのだが、彼が連休中に京畿道内やソウルを歩き回り、5月1日午前零時から2日未明にかけては、梨泰院でいくつかのクラブをハシゴしていたことが問題を深刻化させた。

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感染拡大が心配される梨泰院のナイトクラブの入口 ©getty

 その結果、この男性が長時間滞在した梨泰院のナイトクラブ「キング(King)」を中心にコロナ感染者が続出し、5月11日現在で計79人の感染者が発生したのだ。

「ブラック睡眠部屋」とは?

 さらに今回のクラスターへの対策を複雑にしているのは、その20代男性が歩き回ったクラブのうち、「キング」など3カ所が、いわゆる「ゲイ・クラブ」だったことだ。

 このため、クラブの利用者がアウティング(本人の望まないカミングアウト)を恐れ、防疫当局の調査に応じないケースが続出している。防疫当局によると、約5500人のクラブ利用者のうち2000人ほどが虚偽の連絡先を残し、連絡が取れていない状態だという。防疫当局は、携帯電話会社とカード会社にデータの提出を要請し、警察からも協力を得てクラブ利用者全員を捜し出して検査を受けさせる方針だが、現状は厳しい。

「感染した男性が訪れた当日のクラブ内部映像」とされて流布された動画(YouTubeより)

 さらに深刻なのは、クラブで感染した者の一部が「ブラック睡眠部屋」と呼ばれる男性同性愛者専用の休憩所にも立ち寄っていたことだ。「ソウル新聞」電子版(5月10日付)は、この「ブラック睡眠部屋」について次のように説明している。

「ブラック睡眠部屋は“チムバン”という名称で呼ばれ、男性同性愛者が性的欲求を解消するために使う場所だ。夜になるとさらに賑わい、金曜日から日曜日までは足の踏み場もないほど多くの人が訪れる。少人数が使用できるこぢんまりした部屋から、大人数が入場できる開放された空間までそろっている。薄暗い部屋では性行為が主目的であるため、手指消毒剤の使用やマスク着用など基本的な生活防疫はほとんど守られていない。匿名の男性と性行為をする空間なので、入場客は個人情報が公開されやすいクレジットカードより現金を好む」