カツオ大活躍の「サンマータイム」
「サザエさん」は1946年、福岡の地元紙だった夕刊フクニチで連載が始まり、49年から夕刊朝日新聞を経て朝日新聞(朝刊)に74年まで連載された。
『おたからサザエさん』では、単行本化の際に本人が没にした四コマ漫画696点を初収録。すべての作品に、新聞掲載日を明示している。現代の読者にはわかりにくいと思われる表現には注釈を付けた(朝日新聞2018年3月12日)。
たとえば52年9月5日の作品(1巻収録)。
朝、起きたばかりの波平がカツオに「またハミガキのフタがあけっぱなしだよ」「一つくらい言われない先にやったらどうだ?」と小言を言う。
するとカツオは「ゆうべトケイをもとになおしといたよ」と目覚まし時計の話題をする。そして、
「サンマータイムおわったんでしょう?」
急に慌て始める波平、フネ、マスオ、サザエ。やり手のカツオだけがサマータイム終了を忘れずにいたのだ。※当時は「サンマー」と表記することが多かった。
サマータイムと言えば、2年前に五輪組織委員会の森喜朗会長が安倍首相に酷暑対策として導入を要請したことがあった。
戦後に導入していたことが論議され《占領軍が導入した時は寝不足や残業増の元凶とされ、講和とともに廃止された》(毎日新聞「余録」2018年8月7日)などの指摘も出てきた。実は「サザエさん」を読めば当時の様子がリアルにわかったのだ。
衝撃の「カクセイざいをくれたまえ」
そして戦後の風景で何といっても仰天したのは52年12月8日の作品(2巻収録)である。
1コマ目、薬局で年配の男性が「カクセイざいをくれたまえ」と言っている。ええええー!
徹夜に備えて張り切っているらしいのだが、4コマ目でグーグー寝ている。薬局は間違えて睡眠剤を売ってしまったというオチ。さらにええええー!
注釈を読むと、
《かつて、疲労回復や眠気覚ましの薬として、覚醒剤の一種である「ヒロポン」が巷の薬局で売られていた。「ヒロポン」は、1951(昭和26)年に制定された覚醒剤取締法によって、医療・研究以外の取り扱いが禁止された。》
とあった。これもまた戦後の風景だったのだ。
ただ、よく見ると作品が掲載された日付は「52年12月8日」。
注釈には、《禁止後にこの四コマは描かれたため、掲載後「声」欄に読者からの指摘が届いた。》とも。「声」はサザエさんが連載されていた朝日新聞の投書欄のことなので今で言う炎上案件だったということか。このような「お宝」「幻」の作品も注釈付きで掲載されているのである。
漫画の「サザエさん」はやっぱり日本の戦後史、文化史を学べる貴重な教科書だと思います。