過去に文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。社会部門の第4位は、こちら!(初公開日 2019年9月14日)。

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「今週末、福島県のいわき市で行われる『生と死の祭典』に出演するんです」。8月の終わり、“事故物件住みます芸人”の松原タニシ氏からそんな話を聞いた。イベントの正式名称は「igoku fes(いごくフェス)2019」。半信半疑でホームページを覗いてみると、たしかに「今年もやります、生と死の祭典!」とのキャッチコピーが。しかも主催は「いわき市地域包括ケア推進課」とある。いわき市主催の「生と死の祭典」とは、一体どんなイベントなのか……。全容がつかめないまま、フェス2日目にいわき市を訪れると、そこには老若男女500人ほどが詰めかけた満員の会場で、怪談を披露する松原氏がいた。

取材・構成=文春オンライン編集部

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 こんにちは。事故物件住みます芸人の松原タニシです。僕は2012年から7年間で7軒の事故物件に住んできました。だいたい1年に1回引っ越しするんですね。事故物件っていうのは人が亡くなった物件のことで、孤独死、病死、殺人、自殺……こうしたことが起きると、その部屋や家は事故物件と呼ばれます。

松原タニシ氏 ©文藝春秋

 僕が最初に住んだのは大阪の事故物件で、家賃4万5000円の10畳ワンルームでした。そこで生活しながらずっとカメラを回して、幽霊が映ったらギャラがもらえるという仕事です。僕はもともと霊感がまったくなくて、幽霊は怖い、お化け屋敷も行けない、そんな人間でした。ただ、10年間芸人として全く売れなくて。M-1グランプリとかR-1グランプリに出ても、全然ファイナルステージに残れなくて、どうしようかなと思っていたときに、この事故物件の仕事が舞い込んだんです。

「お前、カラオケボックスにおるやろ?」

 で、この部屋で一人暮らしを始めたわけなんですけど、初日の晩、早速不思議なことが起きました。知り合いから電話がかかってきて、いつも通り出ると、「お前、カラオケボックスにおるやろ?」って言われたんです。「いや、一人で部屋におるよ」って答えたんですけど、「そんなはずない、電話の向こうから女の子の歌声がいっぱい聞こえる」と。

1軒目に住んだ事故物件。家賃4万5000円の10畳ワンルーム

 実は、ここはもともと女の人の幽霊がいっぱい目撃されていて、更には忌まわしい殺人事件も起きたというマンションでした。この部屋自体は直接事件が起きた現場ではなかったんですが、お化けが出すぎたり、事件が起きすぎたりして、建物全体が事故物件扱いされている、そんなマンションだったんです。