「我々は“ばい菌”じゃない!」
こうした中で、メディアでは盛んに「医療従事者に感謝しよう!」と呼びかける報道が行われている。
「萩本欽一さんの『看護師さん それからお医者さんに感謝しようよ』というメッセージや、バンクシーの絵などには報われる思いがするし、患者さんも皆さん気遣ってくれて、とても励みになります」(小路医師)
「感謝の言葉は素直にうれしい。医者は感謝されるのが一番うれしいんです」(前出の首都圏の公的病院・耳鼻咽喉科医)
など、好意的に受け止められているようだ。
しかし、一方では
「大変なのは医療機関だけではない。経営危機、という点ではどの業界も同じこと」(都内の企業立病院に勤める消化器内科医)
という声もある。
順天堂大学医学部元教授で現在は神奈川県茅ケ崎市にある湘南東部クリニック院長を務める市田隆文医師が、怒りを込めてこう話す。
「感謝されるのはありがたいが、病院の職員やその家族が差別の対象にされているのも事実。こうした話を耳にすると、本当に我々は感謝されているのか、と疑問に思ってしまう。自粛要請中に営業を強行するパチンコ店の店名を公表するなら、医療者の家族の出勤を停止したり、子どもの通学や通園を拒否する学校や保育施設の名前も報じてほしいくらい。我々はばい菌じゃない!」
新型コロナウイルス感染症の原因はウイルスだが、差別は人間が作り出す。それだけに悪質だ。
口先だけではない感謝の気持ちを
今回の“コロナ禍”が医療界に残した爪痕は大きい。
私たち医療消費者の側も、単に感謝をするだけでなく、これを機に医療との関係性を見直す必要がありそうだ。
この状況が終息したとしても、二波、三波が到達した時に医療機関がいまの体制を維持し、感染者を収容してくれるという保証はないのだ。
医療現場の疲弊は今に始まったことではない。この騒動で影を潜めてはいるが、軽症なのに救急車をタクシー替わりに使って深夜に受診したり、医療スタッフに暴言を吐く、理不尽な要求をするなどの「モンスターペイシェント」は、世の中が落ち着きを取り戻せばまた湧いて出てくるのだろう。
これ以上医療機関とその従事者に負担をかけないよう、適正受診を心がけ、口先だけではない感謝の気持ちを持って接したいものだ。