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(1)家主さんと直接交渉しておくべきこと

 私が住むことになったのは、築50年の空き家である。都心の10畳ほどのワンルームから9部屋もある一軒家への引越し。所有者は市外に出ており、家や仏壇の管理、また墓参りで時折戻って手入れを行なっていた。水まわりや床の一部がリフォームされており、暮らしを始めるには十分。というよりも、これからひとり暮らしをしようという私にはありあまるほどの広さであり、家の前には5~6台は楽に停めることができる駐車スペースがあり、蔵と、おまけに畑までついて、家賃は都内で借りていたマンションの4分の1。頭のなかは「やってみたいこと」と「理想の暮らし」でいっぱいになった。

借りていた築50年の家
阪谷で収穫させてもらった「雪の下にんじん」など。野菜が甘い

 不動産業者を通さず個人が直接家主さんと交渉をして空き家を借りる際、事前に知っておく必要があるのは、契約時に火災保険や家財などに関してしっかり話し合いをしておく事だろう。家賃の交渉からはじめる作業は、自由度が高い反面なかなかにタフさが求められるものである。また、以前の暮らしの面影を残したままの家財やその他のモノが残っていることも多く、何もないがらんとした空間が提供されるわけではないことを知っておいていいかもしれない。

(2)動かしづらいものは、そのまま置いておく

 私は、家主さんと一緒に片付けと掃除をすることから「住む」をはじめた。机や家電などそのまま使わせていただくものを選び、その他大型のモノや布団等は軽トラに積み込んで焼却場まで運搬(2往復)。なにせ(台所等も合わせて)9部屋もあり、たまに遊びに来る友人が泊まる部屋を確保してもひとりでは持て余すため、結果的に触らない部屋も多かったが、使う部屋はモノを捨て、掃き・拭き掃除をしていった。

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 それはこの家に蓄積されてきた記憶を掘り出すような行為だった。配置を変え、モノを新しく取り替えることで、時を止めたままだった空間を揺さぶっていく。押し入れからだっただろうか、50年前の新聞が出てきたときは、そこに並ぶ文字から香る時代の雰囲気にのみこまれ、しばらく掃除が滞ってしまった。古いものと向き合い、埃をはらうことを通して、家は次第に別の空気を纏うようになった。

豪雪地帯の冬の備え(シャベルや「スノッパ」)を中心に、生活の道具にも親しむ

「動かしづらいもの」は賃貸契約の間そのまま置いておくという選択が現実的であることも書いておこう。その代表格が仏壇である。契約期間が短かったこともあるが、結局私は1年間この家のご先祖さまと微妙な距離感を保ちながら生活することになった。手入れやお参りはもちろん家主さんがされるので、わたしは関係がないはずなのだが、なんとなくそういうわけにもいかず、仏間を通るときには「おはようございます」「帰りました」と小さく心のなかで挨拶をしてみたりする。不思議な関係だった。