アートは世界共通語。そんな言い回しが身に沁みて感じられる、充実の展示がある。東京都美術館で開催中の「ボストン美術館の至宝展」。
ボストン美術館は米国マサチューセッツ州の名門館で、1876年の開館。地元を愛する有志が立ち上げ、公の援助は受けず、寄贈や寄付によって一大コレクションを築き上げてきた。
日本美術が、ごっそり里帰り
地域への貢献と美術への愛。そんな志を持った者が、百年超の長きにわたって私財を投げ打ちコレクション形成を進めてきたからだろう、間に合わせの作品など一つもない。ボストンに収まるべき意味がちゃんとあり、かつ質の高い作品ばかりが揃っている。
米国の良心ともいうべき名館の凄みを、凝縮して見せてくれるのが今展だ。扱うジャンルは幅広く、どの項目も見ごたえはじゅうぶんすぎるほど。
会場に入ってまず出合うのは、古代エジプト美術の数々。ボストン美術館設立当初から力を入れて収集されてきた分野で、20世紀初頭にはなんと館がみずから発掘調査団を組織し、エジプトまで出かけている。
《メンカウラー王頭部》もそうした発掘調査の賜物。エジプト古王国時代第4王朝のものというから、ピラミッドが造られていた頃のものになる。顔面や唇の肉付けがリアルで、きっとこの王の顔貌をよく表しているに違いない。
歩を進めると、展示は中国の美術へと移り変わる。こちらも19世紀末から一貫してコレクションに注力してきた分野。中国の南宋時代に描かれた《九龍図巻》は、全長10メートル近い画面のなかに9匹の龍が生き生きと描き出される。日本でも龍はよく画題となるが、さすが本場の龍は実在感にあふれる。
国外では世界最大のコレクションとなる日本美術も、ごっそり里帰りしてきた。尾形乾山が製陶し尾形光琳が絵を描いた《銹絵観瀑図角皿》は、アメリカの動物学者モースが日本滞在中に収集したものの一つ。エジプトや中国の美術に続いてこれを観ると、こぢんまりとしていながら、その内部に精巧な小宇宙を生み出す日本美術の特長に気づかされる。
英一蝶の《涅槃図》は圧巻で、今展最大の見どころか。高さ3メートル近くもある大作は、画面中央に入滅するお釈迦さまが横たわり、その周りに菩薩や羅漢、さらには動物たちまでが集まり嘆き悲しんでいる。画面全体の構成も鮮やかなら、細部に目を留めていっても一人ひとり、一匹ずつが丁寧に描き分けられて飽きさせない。転げ回るゾウなんかもいて、ユーモアあふれる筆致に思わずニヤリとしてしまう。それでいて、生きとし生けるものを平等に扱う仏教の教えも読み取れて、一枚の絵画に含まれている要素の多様さと奥深さに唸らされるのだった。