小泉政権のときのこと。拉致被害者が北朝鮮から帰国を果たす際、空港で拉致議連の会長代行・中川昭一は議員たちにこう呼びかけた。

「被害者の方々がタラップを降りてきても、我々は、しばらく遠慮しよう。家族と何十年ぶりに再会するんだ。そこに割り込むようなことは慎もう」

 ところがチャーター機から拉致被害者が現れると、テレビに映り込もうとして多くの議員たちは駆け寄っていった。

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 そのなかに小池百合子もいた。小池はそんなふうにスポットライトの下に立ち続けようとしてきたのだ。

 これは石井妙子『女帝 小池百合子』(文藝春秋)にあるエピソードである。本書は「カイロ大学卒、初の日本人女性」などの虚実入り交じる経歴や経験を自己宣伝しながら世を渡り、たくみに実力者に取り入りながら上昇していった小池の評伝である。

参議院選挙初当選が決まり、細川護熙・日本新党代表(左、当時)と喜びの握手をする小池百合子氏(1992年撮影)©時事通信社

「イケメンの自衛官を15人集めて頂戴」

 小池がニュースキャスターから政治家に転じたのは40歳のときのこと。92年の参院選に比例で出馬すると、「日本新党のチアリーダー」として全国をまわり、当選を果たす。そうして政界入りした小池は、党首の細川護熙の側近として振る舞うが、細川の人気が陰ってくると小沢一郎に乗り換える。

 そんなふうに転々としながら人気絶頂の小泉純一郎へとなびくようにして自民党にたどり着く。その後、大臣経験を重ねていき総裁選にも出馬し、今では東京都知事である。

 石井は、そんな小池が通り過ぎていった人物を取材して得た証言や、膨大な量の書籍や雑誌記事から、来歴(上記の学歴の真偽を含む)を詳らかにし、人物像を塑造していく。

「女帝 小池百合子」 文藝春秋

 たとえば防衛大臣時代。当時の事務次官はこんな逸話を明かす。初めての登省の際、女性自衛官たちが花束を渡して歓迎したところ、小池はそれが不満で「イケメンの自衛官を15人集めて頂戴」と要望する。そうして男性自衛官に囲まれた写真を撮り、PRに用いるのだった。

 小池はかねてより、女性同士で集まることを避け、男社会の紅一点としてもてはやされようとしてきた。その習性が現れたエピソードである。男社会で活躍する私、これが小池にとって重要なのだ。