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純粋にして完璧な「色」がそこにある

 会場を折り返すと室内全体を暗くした空間がある。そこにずらり並ぶのは《仏の海》なる作品。蓮華王院本堂、通称三十三間堂の千体仏を撮ったものだ。東山から射し込む朝陽を反射して輝く仏像群の写真は圧巻の迫力で、お堂で実物を観るのとはまた違った感興を誘う。

京都市京セラ美術館「杉本博司 瑠璃の浄土」
《仏の海》展示風景

 その隣、一転して明るい展示室で公開されているのは《OPTICKS》と呼ばれるシリーズ。光の性質を研究したニュートンに触発された杉本は、プリズムを通した光を白壁に映し出し、現れ出た色をポラロイドフィルムで撮影。画像をスキャンして印画紙に大きく伸ばすことで、色だけが写っている作品をつくり上げた。そこにあるのはなんて鮮やかな色、そして滑らかなグラデーションか。「純粋」または「完璧」といった観念が、色彩という装置によってここに可視化されているかのようだ。

京都市京セラ美術館「杉本博司 瑠璃の浄土」
《OPTICKS》展示風景

 他に、蒐集家である杉本の有する古瓦、古代のガラス玉、隕石のかけらなどが置かれたスペースもあったりと盛りだくさん。ありがたいものを山ほど見た! という充実感を抱いて会場を出ると、窓外に広がる日本庭園の池に、ガラスで覆われた茶室が浮かんでいるのを見つけた。

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京都市京セラ美術館「杉本博司 瑠璃の浄土」
《硝子の茶室 聞鳥庵》展示風景

 これも杉本作品であり、《硝子の茶室 聞鳥庵》という。読み方は「もんどりあん」。20世紀の抽象画家ピエト・モンドリアンの絵画のような見た目であることから名付けられた。

 東山キューブと庭園が丸ごと、静かで清らかな空気に覆われているように感じられる。杉本博司はこの地に、仮想の寺院をたしかに建立しおおせたのだと確信した。