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芸術によって“仮想の寺院を建立する”……元骨董商の美術家が京都に創り出した空間とは

アートな土曜日

2020/05/30

 京都・岡崎公園内に戦前から佇むのが、和洋折衷「帝冠様式」建築の京都市美術館。このたび外観や基本構造は保ちつつ大規模改修が施され、ネーミングライツにより名称を「京都市京セラ美術館」と変え、リニューアルオープンと相成った。

 これを機に新設されたのが、「東山キューブ」と呼ばれる巨大な展示スペース。主に現代アートを紹介する場として活用されていく予定である。こけら落としとして現在開催されているのは、「杉本博司 瑠璃の浄土」展。会場内のどこをとっても晴れがましさと神々しさに溢れ、新しい「場」にまことふさわしい雰囲気をまとった展示となっている。

京都市京セラ美術館「杉本博司 瑠璃の浄土」
《仏の海》展示風景

展示空間を、仮想の寺院に見立てる

 杉本博司は1970年代から、主に写真を用いての創作活動を始めた。美しいイメージを完璧なかたちで出現させる高い制作技術、骨董商だったキャリアによって磨き上げられた高い審美眼、広い知見に基づいた独自のコンセプト。すべてを兼ね備えた稀有な表現者として名を挙げ、現代アートの世界で世界的な評価を確立している。

 京都での大規模個展は意外にも初めてという杉本は、岡崎の地に「瑠璃の浄土」と名付けた仮想の寺院を建立するつもりで、展示を構想したという。

 

 会場へ入ってまず目に飛び込むのは、細長い空間の奥のほうまで連なるオブジェの数々。《光学硝子五輪塔》である。幾何学的なかたちの組み合わせでできたガラス製の供養塔が、ライトを浴びて輝いている。通常なら遺骨が入る位置に、杉本が世界中で撮り継いできた大海原の写真《海景》のフィルムが納めてある。これらの塔を眺めながら歩を進めるたび、明らかにその場の空気が整い澄んでくるのがはっきり感じられる。

京都市京セラ美術館「杉本博司 瑠璃の浄土」
《光学硝子五輪塔》展示風景