すると意外なことに、心に余裕を持って走ってみたことで、初めて気づくことが多かった。国道のもつイメージとのギャップ、深い谷や切り立った崖、緑生い茂る豊かな自然など、多くの魅力がそこにはあった。きっと全国を探せば、他にも酷い国道があるのではないか。こうして、私は酷道を求めて日本中を旅するようになっていった。
そもそも、なぜ酷道などというものができるのか。実は、国道制度ができたのは明治時代のことで、当初は自動車の通行が想定されていなかったのだ。やがてモータリゼーションが起こり、自動車に合わせた道路整備が進められていくのは、それから100年近く後になってのことだ。しかし、需要の少なさや地形の問題などから、今なお整備が進んでいない路線もある。そうした時代の波に取り残された国道こそが、酷道なのだといえるだろう。
国道なのにまさかの階段!?
今やトンネル1本で峠を越えられる便利な時代になったが、あえて酷道を走り、往時の苦労を偲びながら、時間をかけて難所を越えてみるのも決して悪いものではない。旅の趣というのは、そういうところにもあるのではないだろうか。
しばらく全国の酷道を走っていると、その中にも色々なパターンがあることに気付いた。国道157号の山道的な酷道が王道だと言えるだろうが、他にも住居が密集しているため拡幅ができない“市街地型酷道”や、観光のシンボルとして階段が国道指定されたまま残されている“観光酷道”などがある。
夜間しか車が通れない“酷道”とは?
市街地型の究極ともいえる酷道は、大阪と長崎にそれぞれ存在している。どちらも国道の一部が、なんと商店街のアーケードになっているのだ。
大阪の八尾市から国道170号を北に向かって走ると、沿道に建ち並んでいた住宅が、徐々に商店に変わってくる。東大阪市に入ると、ついに道路の両側は商店街となり、アーケードが現れる。アーケード内は、7時から20時まで自動車の通行が禁止されている。ここは国道なのに、車は夜間しか通れないのだ。
車をコインパーキングにとめて、徒歩でジンジャモール瓢箪山商店街を歩くと、入口には、歩行者及び自転車専用道路を示す道路標識が取り付けられていた。アーケードの中はいたって普通で、ただの商店街にしか見えない。ここが国道であることを除いては。