新型コロナウイルス問題で、新大関朝乃山の“お披露目”が延期となってしまった。思えば先の3月、浪速の地で強行開催された、異例の「無観客開催場所」のなか、晴れて大関昇進を決めたのが朝乃山だった。
しかし、待望の新大関デビューも、このたび五月場所が中止となり“お預け”となる。
「トランプさんがいて、本当に緊張しました」
振り返れば、昨年の大相撲五月場所は、令和と元号を変えて迎えた、初の本場所ともなった。千秋楽には、トランプ大統領が両国国技館の土俵に立ち、上を下への大騒ぎだったものだ。初の「アメリカ合衆国大統領杯」を幕内最高優勝力士に授与することとなり、その栄誉に輝いたのが、当時平幕で初優勝した朝乃山だ。すでに14日目に優勝を決めていたのだが、当初、表彰式だけに出席予定だったトランプ大統領が「是非とも優勝力士の取組を見てみたい」と、急遽観戦することになったという。
当時を振り返って朝乃山は苦笑いをする。
「千秋楽は御嶽海戦だったんです。大統領が来るって意識もしていなくて、負けてしまいました。終わってみたら(表彰式で)目の前にトランプさんがいて、(そちらのほうが)本当に緊張しました」
令和2年の今年。新型コロナウイルスが、じわじわと大相撲界にも影響をもたらした。3月の時点では大阪場所を無観客開催で乗り切り、成功させた日本相撲協会だったが、以来、事態は深刻化する。まずは五月場所は「2週間の開催延期を」と土俵際まで粘ったものの、中止を決断。のちに、不幸にも感染死亡者が出てしまったが、当面、相撲協会は「七月場所の無観客開催を目指す」としている。
朝乃山は運が良いのか、悪いのか
令和時代初の優勝力士となり、アメリカ大統領からの初優勝杯を受け、史上初の無観客開催場所での大関昇進――。注目される場所をものにして話題となった愛弟子に、高砂親方は、細い目をいっそう細めながら言っていた。
「もしかしたら“朝乃山は運もいいのか”と言われるかもしれないが、それは後になって周りが思うものなんだよな。本人はそんな余裕はないって。現に大統領の前では負けてるわけだし。大統領にしたら『え? 優勝力士が負けたの?』って思うよなぁ」
そう呵々大笑していたのだが、新大関として土俵に立つ日は先が見えず、一転して“不運な朝乃山”ともなってしまった感がある。
まさに高砂親方の言うとおり、運、不運は「後になって周りが思うもの」なのだと実感するのだ。