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 この11日後の4月20日に朝日新聞は「自己責任とは」という特集記事を書いているが、ここでも時系列の表で一番最初に載っているのが小池氏の発言だった。

 新聞で確認する限り、政治家として最初に被害者の「自己責任」に火をつけたのは小池氏だった可能性が高いのだ。

小泉純一郎氏 ©︎文藝春秋

 そこであらためて考えた。今回『女帝 小池百合子』を読んで、もう一つ私が指摘しておきたいのはその巧妙な判断である。

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「自己責任論」をいち早く言い出すことで、当時のトップである小泉首相も言いやすいようお膳立てをしたようにも見える。

 またしてもトップに寵愛されることをわかっていたはずだ。今から16年前の自己責任論読み比べでさえ小池氏の権力者への媚態がうかがいしれる。

 では、上ばかり気にしていた小池氏には「仲間」はいたのか。小池氏はよく「さらば、しがらみ政治」と言うが、あれだけ人を利用して裏切りを重ねればむしろ「しがらみ」をつくりたくても無理だろう。そういえば一瞬だが政権交代のムードすら漂った「希望の党」設立時でさえ側近は新人同様の若狭勝であり民進党を離党したばかりの細野豪志だった。しがらみがないのではなく仲間がいないのだ。そんな生き方をしてきたから。

「女性」には厳しい小池百合子

 本書を読むと、小池百合子はオヤジに可愛がられつつ、しかし「女性」には厳しい。

 のしあがってきた経緯もマスコミや記者のおじさんたちに可愛がられたからだ。彼らはノーチェックで小池氏の「物語」を流布してしまう。一緒になって「物語」をつくった共犯者でもある。だからこそ何度もささやかれた学歴詐称疑惑も踏み込まない。

©︎文藝春秋

 石井氏が2年前に「文藝春秋」で小池氏の記事(2018年7月号「小池百合子『虚飾の履歴書』」)を発表した際、二つに分かれた新聞記者の反応でより多かったのは「そんなことは自分たちも前から知っている」というものだった。

 これはかつて立花隆が田中角栄の金脈問題を文藝春秋で発表した際の記者の反応と同じではないか。そうして怪物を育てていたのだ。狭いムラ社会の弊害にも思える。

 もっと言えばオヤジ社会の罪が大きい。そして小池百合子もまたオヤジであった。

『女帝 小池百合子』は真の東京アラートである。都民に警戒を呼びかけるために発動された。

©︎文藝春秋

 何がゾッとするって、本書を閉じたあとにテレビをつけたら“怪物”が笑顔で喋っていたことだ。

◆ ◆ ◆

※追記

 昨夜になり「小池都知事は『1976年に卒業』 カイロ大学が声明」(ANN NEWS)と報じられた。この展開は『女帝 小池百合子』を読めばむしろ予想通りなのである……。

女帝 小池百合子

石井 妙子

文藝春秋

2020年5月29日 発売