韓国が生み、世界が育てたボーイズグループ「BTS(防弾少年団)」。いまや世界各地に熱狂的なファン「ARMY」を持つ彼らの音楽と人気を論じる、初のBTS評論『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』(柏書房)が発売された。
米韓で活躍する韓国人音楽評論家が、2018年までにBTSが発表した全楽曲を徹底レビュー。また、各界の専門家へのインタビューなどを交えながら、全世界を巻き込んだ「BTS現象」の裏側に迫る同書より、「コラム8 グラミー賞ノミネートの本当の意味」を特別公開!
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BTSの第61回グラミー賞ノミネートが発表された2018年12月、私は韓国ポピュラー音楽として初めてのジャンル、または主要部門でのノミネートを期待した。しかし、残念ながら実現しなかった。韓国メディアはこれを「失敗」と評した。BTSの「快挙」と強調したアメリカのメディアとは真逆だ。
韓国での低評価は、主要部門の候補にならなかったためだが、グラミー賞に詳しい人であれば、そしてK-POPの過去と現在を熟知している人であれば、これはとても短絡的な見方だと気づくだろう。ポイントを再度まとめてみよう。
K-POPの基礎は90年代から築かれた
90年代以前、韓国のポピュラー音楽産業は、世界地図に存在しない無人島のような存在だった。「歌謡」と呼ばれた国産の曲は韓国人が好んで聴く「流行歌」のレベルを超えることができず、外国から輸入された音楽にくらべ、地位は高くなかった。韓国語で「ポップ」といえばアメリカンポップスを意味し、音楽ファンなら歌謡ではなく米国やイギリスのポップスやロックを聞くのが当たり前とされていた。
流行に敏感な若者たちは、いち早く洋楽のトレンドを取り入れていた日本のポピュラー音楽を海賊版のカセットテープで聴いていた。私もそのような少年時代を送り、音楽ファンになった。90年代に入り、ソテジワアイドゥル、015B(90年にデビューしたバンド)、シン・ヘチョル、ユンサン(1987年デビューの歌手・作曲家。現在は音楽プロデューサーとしても活動)など、当時の若手ミュージシャンが現在のK-POPの基礎を築いた。
2000年代以降、K-POPはグローバル市場の扉をたたきはじめる。だが、韓国の歌手がポピュラー音楽の本場であるアメリカに進出して互角に競い、成功できると思っていた人はいなかった。