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ノミネートは「最優秀レコーディング・パッケージ」部門

 どんな部門であれ、グラミー賞にノミネートされることは、それだけで「成功」を意味する。その意味は、多くの人が考えるよりも、はるかに重要かもしれない。詳しい話をする前に、まずファクトを検証したい。

 BTSのアルバム『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』がノミネートされたグラミー賞の部門は、「最優秀レコーディング・パッケージ」(Best Recording Package)だ。「パッケージ」とは、アルバムのカバーイメージなどCD・LPのディスクジャケットを構成するものすべてを指す。

グラミー賞にノミネートされたアルバム『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』

 よく知られているように、この部門は音楽にたいするアワードではない。1959年に「最優秀アルバムカバー」という名で設けられ、アルバム(当時はLPと呼ばれていたレコード盤)カバーの芸術性を審査する部門だった。一時期「グラフィック・アート」と「写真」という2つに分けられていたが、現在は「最優秀レコーディング・パッケージ」部門と名称をあらため、アルバム全体のデザインを評価する賞となっている。

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 アルバムとアーティストの名前が表記されるが、実質的な候補はアルバムで、受賞するのはアーティストではなく、カバーとパッケージをデザインしたデザイナーだ。

そもそもグラミーとはどんな賞なのか?

 BTSのアルバムがグラミー賞候補になったのは、たしかに大きな進展だ。だが、音楽部門ではなくアルバムのデザインでのノミネートだったのは、残念だ。BTSの音楽は、グラミーにまだ認められず、「失敗」したのだろうか。この疑問に正確に答えるために、まずグラミーがどのような賞なのか、そして候補になる(あるいはならない)ことは何を意味するのか、ていねいに考えてみたい。

 1959年に始まったグラミー賞は、アメリカの音楽産業を代表するもっとも長い歴史をもつ音楽賞だ。1年間のアメリカの音楽シーンの総まとめの場というだけでなく、音楽産業そのものを牽引する役割を担う。米国でグラミー賞は、アマチュアスポーツ選手にとってのオリンピックメダルのように、ミュージシャンのキャリアでもっとも栄誉とされる。なぜなら、ほかのアワードとは異なり、人気に関する数値や指標を参考にしないからだ。

2018年には国連総会でスピーチも行った ©AFLO

 グラミー賞のすべての部門は、主催者のレコーディング・アカデミーの会員によって審査され、選ばれる。アカデミー会員のなかでも投票権を有するメンバーに選ばれた一部の人だけが、この過程に関わることができる。レコーディング・アカデミーの会員は、3つのタイプに分かれ、グラミーに携わるのは、「投票メンバー」と呼ばれる一番高いランクの人たちだ。

「投票メンバー」は、レコード制作の経験を積んだ現役の音楽関係者で、厳格な認定プロセスを経て、グラミー賞の審査に参加する資格を得る。審査員を選ぶ段階から存在する厳しい「関門」。それが、グラミー賞の伝統と信頼が認められるゆえんだ。

 それだけではない。アルバムも、複雑で厳しい過程を経てノミネートされる。エントリーを希望する作品が提出されると、各分野の専門家が一次審査(スクリーニング)をおこない、ジャンル別、項目別に分類する。そして二次審査(投票)を経てようやくグラミー賞にノミネートされるのだ。