「グラミー賞は保守的」と言われる理由
グラミー賞は、きわめて保守的なミュージックアワードとして知られている。これは、過去の受賞結果をみればよくわかる。代表的な例が、ポピュラー音楽で一番「若い」ジャンルのひとつ、ヒップホップにたいするグラミー賞のスタンスだ。
グラミー賞に「最優秀ラップ・パフォーマンス」部門が新設されたのは、ヒップホップ初のレコードがリリースされてから10年も経ったあとのこと。主要部門で受賞者が生まれるまでは、さらに10年かかった。1999年の第41回グラミー賞でローリン・ヒルの『ミスエデュケーション』に贈られた「最優秀アルバム賞」だ。
もちろん、数多くの会員で構成されるグラミー賞の審査員がヒップホップを無視したり、このジャンルの音楽性を認めなかったわけではない。ただ、審査員の音楽的な趣向が優先される特性上、大衆のトレンドが反映されるには時間がかかる。結果、受賞するのも、進歩的というよりは保守的、または中庸路線のアーティストや作品にならざるを得ない。
また、レコーディング・アカデミーの会員の多くを占めるのは、アメリカのメインストリーム、つまり年齢が高い白人の中産階級の人びとだ。これも、ブラックミュージックよりポップやロックが、実験的でトレンディな音楽より安定して成熟した音楽が優先される理由といえる。新たなトレンドの音楽でグラミーメンバーを刺激したのは、商業的な成功で社会現象を巻き起こした数曲のみだ。とくに、ボーイズバンドやポップアイドルの音楽がノミネートされたのは、ほんの一握りにすぎなかった。
BTSがノミネートされた“本当の意味”
BTSのノミネートについての疑問に戻ろう。BTSが「最優秀レコーディング・パッケージ」部門の候補になった意味とは何か。結論からいうと、パッケージのデザインを認めただけでなく、グラミーの会員たちがBTSの音楽を意識し、ある程度認めたシグナルだと受け止めている。
ここでも表面的な現象ではなく、「行間」を読む必要がある。グラミー賞のすべての部門は結局、アメリカの音楽産業に携わる人びとの努力を称えるのが目的だ。普通の人にとっては、ほぼ無名のエンジニア、フォトグラファー、さらにはデザイナーにまで賞を与える理由は、彼らが音楽業界で果たす役割の大きさをグラミーがよく理解しているからだ。
しかし、BTSはK-POPアーティストだ。米国内でアルバムがリリースされ、ビルボードのチャートでトップになったとはいえ、結局のところ、韓国の音楽産業に属するアーティストであることに変わりない。しかし、アメリカの音楽産業関係者を祝する場であるグラミー賞で、自国のアーティストによる数多くのアルバムを差しおき、敢えて韓国のBTSの作品にノミネートの機会を与えたのは、非常に異例のことだ。ましてや、BBMAsのようにソーシャルメディアの反応や人気を審査に反映していないにもかかわらず。
偶然にも2018年、BTSの米国ツアー期間に、「グラミー・ミュージアム」(グラミー受賞者に関する資料を展示する博物館)はBTSを招き、音楽についてのQ&Aセッションをおこなった。グラミーがBTSの商業的な成功以外の面にも関心を寄せているのがわかる。このことが、デザインを評価するカテゴリーとはいえ、アルバムがノミネートされる結果につながった。
つまり、断片的なファクトではなく、全体的な流れを理解する必要がある。受賞はもちろん、アルバム・パッケージのデザインが際立っていたためだろう。だが、2018年にアメリカで巻き起こった「BTS現象」にグラミーのメンバーが注目した証と考えると、より説得力がある。