文春オンライン

「相手にナメられたら終わり」いまだから明かせる、プロ野球・乱闘劇の舞台裏

『プロ野球 里崎白書 Satozaki Channel Archive』より #2

2020/06/18

堪忍袋の緒が切れたときに発動するサイン

 そういうことが続いてあまりにも腹に据えかねたときはどうするか。

 もう時効だと思いますから言っちゃいますけど、ぼくの場合はそんなときだけ投手に出す“デンジャラスサイン”もありました。

 09年シーズン。バントの構えから引いたバットを故意に当ててきた(トッド・)リンデンと揉めたとき(*2)なんかも、マウンドの唐川(侑己)には、「次の球で絶対にいけ!」とひそかにサインを出しました。もっとも当の唐川は、ブチギレているぼくのテンションについてこられなくて、全然投げてこなかったですけどね(笑)。

ADVERTISEMENT

*2 09年8月2日に千葉マリンで開催された楽天戦の6回表に発生。伏線は前の打席での胸元への投球。リンデンの行為は故意の報復行為とみなされ、一触即発の事態となった。

 ちなみに、そんなぼくのテンションに唯一ついてきたのが、成瀬(善久)です。07年のタイガースとの交流戦。当時いた(エステバン・)ジャンという外国人投手が、ぼくの打席でストレートを背中に通してきたことがあったんです。こっちもプロですから、故意かすっぽ抜けかは見ればわかります。で、ベンチに戻るなり、ムカムカしていたぼくは成瀬にこう言ったんです。「おい、次、矢野さんいくぞ」って。

選手を守るには「怒りのパフォーマンス」も必要

 次の回は鳥谷、矢野さんと続く打順。つまりそこで、サインを出した矢野さんに同じことをしろ、と言ったんです。でもね、ちょうど試合が0対0で膠着していたこともあって、ベンチで座っている間に「これ、もし先頭の鳥谷が出て、矢野さんまで出したらマズいな」と、どんどん冷静になってきてね。それでも、間髪入れずにやり返さないと意味がないから、もう一回成瀬のところへ行って、「やっぱり矢野さんはやめるわ。鳥谷でいこ」って、“指令”を変えることにしたんです(笑)。

※写真はイメージです ©iStock.com

 後々本人に聞いたら、“標的”が左の鳥谷に変更になったときは「ホッとした」とか。07年の彼は、防御率1・82で16勝1敗と絶好調でしたから、コントロールそのものに問題はなかった。でもサウスポーの彼にとっては、矢野さんのような右打者の「背中を通す」のは至難の業だったのです。半ば強引なぼくからの指令に対する最初の感想が「右打者には投げづらい」だった彼も、なかなかですよね。

 故意に当てるのは、よくないこと。ただ、「そっちがその気ならこっちもいくよ」という“怒りのパフォーマンス”も時には必要ですからね。選手を守る意味でも、ぼくらには「やらなきゃいけない場面」がやはり実際にあるんです。

プロ野球 里崎白書 Satozaki Channel Archive

里崎 智也

扶桑社

2020年3月1日 発売

「相手にナメられたら終わり」いまだから明かせる、プロ野球・乱闘劇の舞台裏

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー