「まずは高校受験に合格すること。早く退院すること。楽しく生きます。
あ、卒業式も! 大事な大事な卒業式、忘れちゃいかん」
笑顔と涙で溢れた卒業式と高校受験
2016年3月。
高校受験のため、一時帰宅していた夢華さんは、試験当日も参考書から手が離せない。その参考書には、病院での勉強の日々を物語るように、たくさんの付箋がついている。
夢華さんは、自宅に近い高校を希望した。
自らの手で義足を付け、母の運転する車に乗り込み、受験会場に向かう。道中、通っていた中学校の前を通ると、先生たちが校門の前から応援の声を投げかけてくれた。
2日間の日程で行われた公立高校の入試は、抗がん剤治療中で免疫力が下がっていることから、別室で試験を受ける。
試験後、再び病院に戻った夢華さん。この日も抗癌剤治療が始まる。
抗がん剤は、正常な細胞にも影響を与えるため、吐き気やだるさ、脱毛、口内炎など、さまざまな副作用がある。
しかし夢華さんはいつも全力で乗り越えてきた。
目標の1つだった仲間たちと一緒に中学校を卒業すること。
その日を迎えることができた夢華さんは、車から直接卒業式が行われていた講堂へと向かっていく。
自分の力で一歩一歩噛みしめるように壇上に登り、卒業証書を受け取った。
「卒業証書、松尾夢華。中学校の過程を修了したことを証する」
笑顔と涙が入り混じった卒業式の後は、高校の合格発表だ。結果を見に行ったのは母親の南美江さん。
「ありました、ありました。ちょっと夢華に教えてやらんとね」と興奮しながら電話をかけ、自宅で待つ愛娘に結果を伝えた。
「もしもしおめでとう!受かっとったよ」
終わりが見えた抗癌剤治療
2016年4月。
高校生になった夢華さん。入学式には出席したものの、抗がん剤治療のため入院生活が続いている。
抗がん剤治療は、辛く孤独な戦いだ。
母親の南美江さんは、その長く辛い治療生活の終わりが見えてきたことに安堵の色を見せた。